中西さんの新著『活字のない印刷屋』

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中西秀彦さんの新著『活字のない印刷屋』(印刷学会出版部)が刊行された。

中西さんは、人文学の世界では知らぬ者はいない京都・中西印刷の若旦那である。ただの若旦那でないのは、五万におよぶ活字を擁し、さまざまな言語が入り乱れる複雑な組版を得意としてきた中西印刷の伝統を引継ぎながら、活版から電算への移行をはたした実績からもわかる。そのときの顛末は、1994年に出た中西さんのデビュー作『活字が消えた日』にまとめられている。同書の編集担当者は、当時まだ四年目の青二才編集者のぼくであった。

筋金入りの小松左京ファンでもあった中西さんは、『活字が消えた日』以来10数年、何冊もの著作をものすることをとおし、印刷界のコンピュータ化イケイケ伝道師のような役割をはたしてきた。今回の著作は、印刷学会の雑誌に連載されたコラムをまとめたものだが、これまでの著作に比べて視点がより豊かになり、その射程も深くなったようにおもわれる。この間の印刷業界の変転のなかで試行錯誤を経て、かれ自身がより成長し成熟してきたことの現れであろう──というと、中西さんは「なにをエラソーに」と苦笑されるかもしれないが(すみません)、おそらくそういうことなのだとおもう。

ベンヤミンの言葉を借りていえば、ぼくたちにとってより必要なのは、電子化が「印刷」であるかどうかを言い立てるというよりも、新しい「印刷」によって「印刷」全体の性格がどのように変容しうるのかを問う態度だろう。「出版」(publishing)もまたしかり。