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映画『ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』

とにかく必見である。

ブロードウェイ・ミュージカル『コーラスライン』の2006年再演時のオーディションを追ったドキュメンタリー。邦題は腰が抜けるほどベタだが、そんなことに惑わされてはいけない。ぜひスクリーンで観てほしい。

観終わると、ある種の転倒した感慨がこみあげてくる。というのも本作品は、たぶん1970年代以降のハリウッド産ミュージカル映画のなかでもっとも「ミュージカルしている」フィルムのひとつであるからだ。

ドキュメンタリーなんだけどな、これは──。いや、違う。ドキュメンタリーだからこそ、と理解するべきなのだ。

本作品が「ミュージカルできている」のは、図らずも偶然性がまぎれ込んでいるからである。だからここでの身体は、物語に解消されそうになりながらも、かろうじて踏みとどまっている。この半世紀が、ミュージカル映画の終わってしまったあとの時代(これを「ポスト・ミュージカル映画の時代」とよぼう)であることを鑑みれば、この僥倖はほとんど奇跡的である。企画制作サイドでさえ、ここまでの見通しはもっていなかったにちがいない。本作品はあくまで『コーラスライン』再演という一大プロジェクトの余録、という位置づけであっただろうからだ。

僥倖をよびこんだ基盤は、直接には、実際のオーディションのドキュメンタリーという成り立ち方にあり、けっきょくのところこの点に尽きる。21世紀の身体管理社会においてミュージカル映画を成立させうる狭隘な一筋の回廊を見出したこと。そこに本作品固有の意義が見出されるべきだろう。ただし、つぎに同じ道を同じように抜けようとすれば、たちまち崩れ落ちるかもしれない。

印象に残ったシーンをいくつか。

原案・振付・演出の故マイケル・ベネットの姿を収めた記録映像と、その扱い方にあらわれるかれへの敬意。

コニー役候補者のひとり高良結香さんの審査において、初演時のコニー役で今回の振付担当バイヨーク・リーがダメ出しする姿。過剰なまでに「アメリカ性」を主張するさまは(「物心ついたころから地下鉄の座席のとりあいを経験していなければね」)、いかにもじぶんの力だけを頼りに成り上がってきた移民の末裔らしい。

そして選考においては徹底的に容赦ないのと同時に、候補者にたいしてつねに敬意を払う姿勢をわすれないエイヴィアンはじめ演出スタッフの姿勢。

なお原題は “Every Little Step”。『コーラスライン』のテーマ曲 “One” の歌詞からとられたフレーズである。