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車窓都市

名古屋芸術大学で特別講義をしてきた。『アトラクションの日常』を読んでくださったという津田佳紀先生からお誘いいただいたのだ。とてもありがたいことである。

名古屋駅から名鉄にゆられて15分ばかり。その大学のあるあたりは、かつて西春町とよばれていた。それがいまでは駅名に痕跡を残すのみで、「北名古屋市」と称しているという。その名前についてよそ者が忖度することはつつしみたいが、そうした改名が、近隣の大都市の知名度に寄生することばかりに目がいった結果、いっさいの歴史的文脈というものを消去してしまっているくらいのことは、誰にだって想像がつく。そしてそんな地名がいまや日本じゅうにあふれている。歴史性をはぎとられて、時間の流れない世界という点では、郊外、もしくはテーマパークみたいなものだ。娘に源氏名みたいな名前をつけてしまうようなタイプの欲望とも近い。

『アトラクションの日常』のなかでは、名古屋という都市のあり方が重要な役まわりをはたしている。ぼくにとって名古屋という街は、そこから離れるべきものであると同時に、否応なくその文化に根ざしていることを意識せざるをえないものでもある。その名古屋の都市的様態を、同書のなかで、バザール都市としての東京と対比しながら「スーパーマーケット都市」と書いているが、これは車窓都市といいかえてもよい。名古屋は──少なくとも戦後のある時期以降の名古屋は──全域が「郊外」として編成された大都市であり、「郊外」という空間は、どう考えたって車窓的なのだ。

というわけで、講義でも「車窓」について話をした。「車窓」はメディア論における定番ともいうべき題材である。「車窓」というものが、たんに即物的な風景の一種なのではなく、ひとつの認識の装置だからだ。今回は、「車窓」における認識のあり方が今日のリアリティのそれとパラレルではないかという話をした。現在の若者のリアリティが正常か否かというような話ではない。そうではなく、そういうタイプのリアリティこそが今日ぼくたちを枠づけているリアリティなのだということである。

もっとも、どんな学生が受講するのかまったくわからなかったので、あまり事前に学生の状態を想定することなく準備した。蓋を開けてみると、受講生の主力は一年生であり、一部に三年生がまじっていたらしい。ぼくの話に、目をぱちくりさせて困惑している子もいて、かわいらしかった。一般に、ぼくがとらえるようなディテールはあくまでディテールであって、それをほかのことに結びつけて小難しく考えたりすることはないだろうし。だが同時に、なんでもないそういうものが、じつはどれほどわたしたちの世界への向きあい方(あるいは向きあうことを回避するその仕方)に関係しているかを考えることもまた重要である。というのも、げんにわたしたち自身がほぼ例学なくそのような社会に生きざるをえないからである。そういうふうにおもってくれたのかどうかはわからないが、反応のよい学生たちもいた。全体としては、せっかくおもしろいものをもっているのだから、もう少し元気があってもいいのにな、という印象である(どこの大学生と接してもそうおもうのだが)。

帰りに乗ったのぞみはN700系だった。往路はがらがらだったが復路はそこそこの乗車率。でも三人掛けのシートをひとりで占有させてもらえるくらいには空いていた。窓際の座席に腰かけて、MacBookAirで原稿を書く。ときおり車窓に目をやり、暮れなずむ東海道の景色をぼんやり眺めながら。


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