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富良野岳に登る(2/2)

富良野岳まで

上富良野岳分岐から尾根沿いに三峰山へ向かう。北海道の高地らしいがらんとした光景である。風はちょうど追い風となる。視界はあいかわらず効かない。ガスに煙るなか、ところどころ岩に黄色いペンキで記されたルートを示す矢印が浮かびあがる。この印が頼りだ。

おおむねゆるゆると下り気味だったが、やがてちょっとした岩場を登る。ところが、ここへ来て、右膝の内側が痛みだす。体重をかけることができない。ストックでからだを支えて、一歩ずつゆっくりと歩を進める。しばらくそうやって遅々としていると、今度は左膝も同じように痛みだした。この位置では、進むも引き返すも登山口まではそれなりの距離がある。なんとかだましながら歩くしかない。だいじょうぶ、歩ける、とじぶんに言い聞かせながらゆっくりゆっくりと歩く。登りきると、そこは1803mの無名峰だった。0840。ここにくると風は弱まっていた。水を飲む。記録をつけていたボールペンをどこかに落としてしまったことに気づく。

少し元気を取り戻し、また歩き出す。すぐに三峰山に着く。0850。何か口にしなければとおもい(出発前には何も食べていなかった)、朝食用に昨夜中富のローソンで買っておいたおにぎりをひとつ頬ばる。雲が薄くなって、太陽が姿を見せる。

歩きはじめると、ガスが晴れてきた。やがて目の前に、これから登る富良野岳が姿をあらわした。こうなると現金なもので、膝の痛みはいつのまにか消えてしまっていた。

三峰山山頂から富良野岳分岐への下りには、岩場を抜けなければならない箇所がある。ちょうど風がやみ、うっすら陽が差し始めたタイミングだったので、なんなく通りぬけたが、しばらく歩いているうちに、先に雨具を着用をすすめてくれた登山者は、三峰山あたりを注意するようにとアドバイスしてくださったことを思い出した。それはこの岩場のことだったのだろう。もし上ホロあたりの風雨だったら、切りたった岩場の上を通過するのはひどく危険だから。

0950富良野岳分岐。先に上ホロ分岐で当初予定どおりのルートをとっていたら、直接ここに出ていたはずだ。雲が切れて富良野岳山頂がよく見える。左側には深い谷。その向こうには広大な森が拡がっている。ところどころ沼が白く光り、いかにもヒグマがころころ遊んでいそうな雰囲気である。

途中、先に山頂にいた三人組が下山してきた。朝から直接こちらに向かっていた。山頂に着いた時点では真っ白。しばらく待っていたら晴れたのでよかった。これから上ホロへ向かうという。

1025富良野岳山頂。さいわい雲が切れて、360度の眺望が得られた。地形と地図とつきあわせながら、歩いてきたルートを確認する。山頂付近では鳥が舞っていた。鷹の類かとおもったら、カラスだった。三羽もいる。鷹と同じように、翼をひろげて谷から斜面を吹きあげてくる風をうけて滑空している。ここで昼食としてパンをたべ、水を飲む。

やがて、三峰山で入れ違いになったカップルが山頂に到達する。かれらもほぼ同じルートを歩いてきたが、雨具をもっていなかったので上ホロには行かなかったという。

さらに、団体らしき登山隊が山頂へ向かっているのに気づく。双眼鏡でみると、迷彩服を着ている。先発隊の偉いひとらしき二人が山頂に着くや、なにやら無線機に向かって話をしている。

長い下山

1100そろそろ潮時と下山開始。途中で自衛隊の本隊とすれちがう。訓練登山らしい。まだ十代らしき若い隊員のなかには、完全にバテて息のあがっている子もいる。1125富良野岳分岐。ここに10名ほどの自衛隊員が腰をおろしている。こうして要所要所に隊員を配置していくのが流儀らしい。

下山をはじめてすぐ、再びガスがかかり、山頂はたちまち雲のなかに隠れてしまった。下山ルートは、山の中腹をゆっくりと巻いてゆくのだが、ガスでまったく視界が効かない。歩いても歩いても、なかなか高度がさがらない。間断なく雨が降っている。足許もぬかるみはじめて歩きにくい。下山は時間の経過がずいぶん遅く感じられた。

視界が効かないので、いきおい足許をみて歩くことが多くなる。ときどき動物の糞らしきものが落ちている。クマのそれではなさそうだ(以前に狩場でみたことがある)。もう少し小さい動物であろう。

単独行で周囲にも他の登山者がいないもあって、ルートをはずれていないか気になる。富良野岳は登山道がじつにしっかりと整備されており、随所に目印が付けられ、誤って立ち入りそうなところにロープが張ってある。ずいぶん助けられた。

標準タイムをすぎてもなかなか上ホロ分岐があらわれない。心細くなってきたころ、ひとの声がした。上ホロ分岐に配置された自衛隊員であった。ごくろうさまですと挨拶する。かれらも返礼するのだが、なんとなく訝しむような目つきである。以前に呉のミュージアムでも、同じような視線を感じたことがある。強固で自己完結型の組織にいればいるほど、その外部者にたいして、そのような視線をもつようになってしまうのか。

上ホロ分岐を1235に通過。ちょうど7時間かかって、ぐるりとひとまわりして、またここへ戻ってきたことになる。ここまでくれば、ゴールは近い。雨のなかひたすら歩き、1325。登山口に到着した。入山から7時間35分経過していた。

登山口のお手洗いの前の水場で登山靴やストックの汚れを簡単に落とし、すぐ脇にある凌雲閣の温泉で汗を流して着替える。旭川へ出て、iPhoneで検索して見つけたコインランドリーで洗濯。そのあと、広大に拡がる田園のなかを隣町当麻へ向けてランクルを走らせた。友人夫妻がひらいている森のなかのピザ屋さん「ココペリ」を8年ぶりに訪れるのだ。