金町浄水場放射性ヨウ素報道にかんする千葉県水道局の発表はなぜ不信感を招くのか

やはり来たか。

23日。金町浄水場から乳児が飲む水道水の暫定規制値の2倍を越える放射性ヨウ素131が検出されたことが報じられた。

福島原発から放射性物質が漏れ出、各地に飛散していると見る以上、その影響は広範囲で確認されるはずだ。すでに北関東を中心に葉物野菜、海水、土壌などで同様の報告があいつでいる。水道水だけ例外でありつづけるとは素人目にも考えにくい。遠からずこういう報告に遭遇せざるをえないだろうとおもっていた。

金町から江戸川をわたれば、すぐに千葉県市川市である。千葉県水道局は、いまのところ同様の数値は検出されていないといっている。いや、正確には、そうしたことはなんら明言していないのだが、読んだ者にはそのような印象を与えるような文面でもって発表されたことが、直接に発表文書にあたるとわかる。

けっして言質を取られることなく特定の印象を与えること。その意味で、これはこの手のお役所が市民県民国民向けに発する情報の典型といえるような文面である。当該文書を、同局サイト(上のリンク先)から、日付・発信者を含めて、発表文面の全文を引用しておく(「参考」と註記されている各浄水場の測定結果表その他は省略した)。

第34報-千葉県水道局水道水における放射線量の測定結果について

平成23年3月23日午後5時現在
千葉県水道局技術部浄水課

・東京都水道局金町浄水場の浄水で3月22日放射性ヨウ素131が、厚生労働省が示した乳児による水道水の摂取を控える指標である100ベクレル/kgを超える、210ベクレル/kg検出されました。
・千葉県水道局において、3月21日に採水した浄水の放射性ヨウ素131の測定結果は、全ての浄水場において乳児向けの指標の半分以下です。
・ただし、当局の水源はその多くが東京都と同じ利根川水系です。念のため乳児の飲用は控えてくださるようお願いいたします。

同じ内容の放送が、市川市の防災無線でもなされたらしい。ぼくは仕事で不在のため直接放送を聞いていないのだが、市川市役所の災害ポータルサイトで発表済の内容が確認できる。

さて、この発表文書は、まことに不思議なものであった。測定結果や、指標との照合など、個々のデータは、そのとおりなのだろう。それらを疑うつもりはない。不思議だというのは、もっとずっと単純なことだ。調査日である。

千葉県水道局が根拠としているのは、21日に実施された調査の結果だ。金町のほうは22日。一日ちがう。なぜなのか。

それぞれの調査日については発表文書のなかにも明示されてはいる。誰でもよく読みさえすれば気がつくことはできるはずだ。だが実際問題として、よほど注意していないと流してしまうだろう。ましてやテレビや防災無線のように、耳から音声を聞くだけであるのなら。そして、そこを聞き流してしまったなら、金町と千葉とのデータは、同じ条件の下で出された比較可能なものであるという前提で、全体の内容を理解しようとしてしまうだろう。

この二週間、東北・関東の在住者は、家族や友人やじぶん自身の身に、もうこれ以上何事もおこらないでほしいという期待(それは当然不安の裏返しである)を心のなかにかかえている。このようなデータの示し方をしたら、その期待のほうに引っぱられて解釈してしまいかねない。そして、仮にそうなったとして、それを一般市民が「正しい知識」をもたない無知のせいだというつもりなのだろうか。そのような解釈へ誘導しかねないような発表の仕方を選択した千葉県水道局の責任は問われなくてよいのだろうか。

千葉県水道局は説明すべきだとおもう。なぜ、わざわざ一日前のデータをだし、それを金町の結果にあえて対照させたのか。

もし金町の調査結果と同じ22日に千葉県水道局でも調査を実施しているのなら、なぜそのデータではなく、一日前のデータをもちだしたのかが合理的に説明される必要がある。もし22日には調査を実施していないというのなら、このような状況下で、いかなる事情や考えがあってその日に調査を実施しなかったのかが明らかにされる必要があるだろう。

たった一日の日付のちがい。小さなことだとおもうかもしれない。だが、一見すると些末にみえる小さなことが、おうおうにして発表される内容そのものの信頼性を損なうのである。もちろん逐次発表されていく情報のなかに誤りが混入してしまうこと自体は完全には防ぐことはできない。しかし、今回の千葉県水道局の発表文書のケースは「誤り」の範疇に入るものではない。

「正しい知識をもって冷静な行動を」と呼びかけること自体は妥当だし重要であろう。ところが、ここで書いたような情報の発表の仕方は、まるで「正しい知識」をもたない一般の市民を無知として丸め込もうとしているかのように疑われてしまいかねないものである。これでは、せっかくの妥当な呼びかけも、みずからぶち壊してしまっているといわざるをえない。

こういうことが積み重なっていけば、ひとびとの不安感はますます増幅され、自治体や政府といったいわゆる「お上」あるいは東電(組織の体質としてはほとんどお役所である)や一部の大手マスコミにたいする不信感を募らせていくことになるだろう。

昨夕、市川駅前で、ミネラルウォーターの入った段ボール箱を2箱かかえて歩く若い男性を見かけた。ただの買い占め野郎だったのかもしれないが、自宅に乳飲み子が待つ若い父親だったのかもしれない。少なくともぼくとしては、かれは後者だったのだとおもいたい。そうであったのなら、誰がかれを責められようか。もしいま、ぼくがかれと同じ立場だったなら、いくら無駄と知っていたとしても、かれと同じ行動を絶対にとっていなかったと言いきる自信はない。

*追記: この記事を公開して一時間ほどした1300すぎ、千葉県の二つの浄水場(ちば野菊の里、栗山)でも乳児暫定規制値を越える放射性ヨウ素131が検出されたと報道された(http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110324-OYT1T00535.htm?from=main1。23日の調査結果であるという。ちなみにどちらも金町浄水場から江戸川をはさんですぐ対岸に位置する。なお千葉県水道局のサイトには1310現在未掲載。(110323)

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