ホーム > 日にち雑記 > ねずみさんと宮本常一

ねずみさんと宮本常一

もう一週間も前のことになってしまったが、島牧でねずみさんに会った。初期の村上春樹の小説にでてくる「ねずみ」ではありません。北海道の旅先でお世話になった古い友人である。

お会いするのは、たぶん十数年ぶりだ。出先から戻ってきたら、ユースの庭先に見慣れぬランクル70が停まっていた。ねずみさんの車だった。茨城古河のご実家へ帰省した帰り道だそうだ。島牧に立ち寄るのは1年以上ぶりだという。

ねずみさんは、ぼくとまったく同じ誕生月日で、きっかり一回り上。島牧ユースのヘルパーの大先輩であり、歩いて日本一周をした漂泊のひとでもある。いまから四半世紀前、ぼくが北海道へバイクで出かけて事故ったとき、病院までむかえに来てくださったこともある。ニセコの山小屋に泊めてもらったりもした。いまはミキサー車を運転しているらしい。仕事は大変だが、おもしろいよ、という。

夕食を一緒にとったあと、ねずみさんは札幌の自宅へ帰っていった。

翌日、学会のため半日遅れてぼくも札幌へ出た。懇親会を途中で抜けて、雨の札幌市内を抜けて、すすきのの交差点まで行き、ねずみさんと落ちあった。おすすめの店だといって、中島公園ちかくのビール屋さんへ連れていかれた。「東洋一」という「昭和」の香りのするキャッチコピーがついている。3000種以上のビールを取りそろえているという。

話をしているうちに、ねずみさんが財布のなかから一片の紙切れを差しだした。

宮本常一著作集の広告だった。

最近は本なんてぜんぜん読まなくなってさ。新聞もスポニチしか読まねえし。でも、なんとなく気になって、切り抜いて持ち歩いていたんだよな。あんたの顔を見て、急に思い出したのさ。おれはパソコンとかやらねえから、どうすれば手に入れられるか、教えてくれないか。

徒歩で日本を一周したねずみさんが、宮本常一に関心をもつのは、よくわかる。忙しい日々のなかで、その関心を見失わずに把持しつづけていたことに、大げさにいえば胸を打たれる思いがした。

帰ったら調べて送りますと約束した。

ビールを2杯のんで外へ出た。雨はすでにあがっていた。