映画『そして父になる』

すばらしい作品だった。

ひとは、あらかじめ誰かであるのではなく、ひととのかかわりのなかで何者かになってゆくのだということを、ていねいに描く。それも、劇的な出来事というよりも、ごくごくありふれた日常的なディテールの淡々とした積み重ねによって、厚みをもって描きだしている。

だがそれは、一見容易にみえながら、もっとも困難な道でもあるだろう。それをなしとげる是枝裕和監督の姿勢と手腕、そして執念は、まことに見事だとおもう。

弛緩したようなショットはひとつもない。ショット間のつながりもよく考えられている。サウンドは、これ以上ないというくらいのぴったりの使い方だ。

役者たちもみな良い。とくにリリー・フランキーと真木ようこの夫婦は、もともと儲け役という以上によかった。

すみずみまで心のこめられた作品である。

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