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女性アイドルとヲタ芸

ぼくのゼミでは毎年のようにアイドルを主題に卒論を書きたいという学生がいる。だからぼくも毎年いろいろ話を聞く。どの話もなかなか興味深い。で、これに関連して、ぼくが個人的に考えていること(妄想みたいなものだが)を少し書き留めておきたい。

ぼくは「参加体験」をひとつのキーワードに文化や社会について考えている。女性アイドルという存在のあり方がどう変容しているかという問題を、ここに照らして考えてみたい。

アイドルについては、太田省一さんをはじめとする興味深い先行研究がある。それらによれば「アイドル」という言葉が今日につながるような感覚でつかわれるようになったのは70年前後以降のことらしい。そこには、テレビという媒体の普及と、そのカラー化が深くかかわっていた。

そのなかで女性アイドルは、それ以前の「聴かれる存在」から「見られる存在」へ変容していったとされている。聴覚中心的なあり方から視覚の優位という流れであり、身体性が卓越してゆく。つまり、アイドルがみずからの身体をさらし、強調し、具体的には露出度の高い衣裳を着たり、踊るようになったりする。

このときアイドルはあくまでもファンの視線を集める存在であり、一種の中心として機能している。いいかえるなら、アイドルを中心として、そのまわりにたくさんのファンたちがいるという構造が成立しており、両者のあいだは一定の距離でもって隔てられているというわけだ。

そのとき両者のあいだをある仕方でもって媒介するのが「親衛隊」などとよばれる熱心なファンである。かれらはあくまでファンでありながら、しかしある部分にかんしては中心たるアイドルに例外的に接近することが許されている。たとえば(今日でいう)コールや、アイドルの「身辺警護」というような形でもって。親衛隊は、このように一種の特権性をおびた集団なのだ。

親衛隊は、70年代半ばのキャンディーズなどで早くも顕在化しており、これが80年代前半くらいにはいろいろとひろがってゆく。アイドルを仕切る側が意図的に親衛隊を組織するようなケースもあったようである。

さて、こうした流れから90年代以降、とりわけ2000年代以降の現象についてどう考えることができるのか。

ひとつの特徴的な現象として、いわゆる「」があげられるだろう。

ヲタ芸とは、アイドルの歌唱にあわせて烈しい踊りやコールなどのパフォーマンスを集団で実践してみせるものだ。しばしばかなり高度に様式化・組織化されている。一種の「芸」とよばれるゆえんでもある。動画サイトなどでちょっと調べてもらえば、無数の投稿を見ることができる。いまでは、女性アイドルのコンサートには付きものといっていいくらい広く見られる。

ではヲタ芸は、かつての親衛隊によるコールの発展形といえるだろうか。たしかに一定の連続性をもっているだろうが、たんなる発展形というと単純すぎるような気がする。個人的には、両者のあいだには深い切断線が走っているような気がしてならない。つまり「ヲタ芸」成立以降の女性アイドルのあり方は、それ以前とは大きく変容しているような気がする、ということだ。

かつての親衛隊は、あくまでも女性アイドルを中心においた構造を前提とし、そのなかで成立していた。これにたいして今日的なヲタ芸では、そうした中心・周縁的な構造が継承されているようには、とても見えないのだ。

ヲタ芸的な世界においてもっとも前景化しているのは、女性アイドルというより、むしろヲタ芸を実践・遂行しているファンたち(という表現が適切かどうかはわからないが)自身である。かれらがみずから参加体験している行為そのものがもっとも前にせり出している。そのなかで女性アイドルは(やや極端な言い方をすれば)せいぜいかれらの「参加体験」のための「燃料」とか「ネタ」というくらいの位置づけしか配当されていないようにさえ見える。

つまり、これまで「聴かれる存在」から「見られる存在」へと変容した女性アイドルは、さらに「参加体験のためのネタ」へと変容を遂げて今日にいたっている、という図式で、ざっくりと把握することができるのではないか。なおこの図式は、アイドルにたいする個々のファンの気持ちみたいなものとは別の水準の話ですので、その点ご留意ください。

ここに見られる変容とは、以前であれば目的であったものがいまや手段となり、手段であったものが目的となっているような転倒である。そしてそれは、良し悪しという価値判断はどうであれ、参加体験が前景化してゆくプロセスにひろく共通して見られる現象であるようにおもう。

そんな話をしていたら、ひとりの学生がこんな質問を出した。じゃあ男性アイドルについてはどうなのでしょう? 当然発せられるべき質問だけど、ぼくにはよくわかりません。考えてみてくださるとよいのでは。

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