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家と庭 Archive

口頭試問の雪の朝

卒論・修論の口頭試問の季節である。その日の朝、首都圏はこの冬初めての積雪となった。

都心で4cmだったらしいが、うちのデッキの手すりを見ると、もう少し積もったのではないかという気もする。まあ、ここは都心じゃなくて市川なんだけど。

庭仕事用のスコップを手にして雪かきをした。クルマのタイヤが踏むあたりだけ、積もった雪がいったん融けて凍結していた。スコップで叩いても容易に割れないほどだった。

そこへ、一時間ほど前に学校へ行ったはずの《みの》がひょっこり戻ってきた。ずっとバスを待っていたが来ない、なんでも始発のバスがいまだ終点に着くことができないような状態らしい。もう今日は休むという。

大学へ行こうと表の道にでたら、大渋滞。ピクリとも動く気配さえない。さっき雪かきしている最中に横を通りすぎていった車が、まだいくらも進めずに並んでいた。

もとよりバスに乗る気もなく、そのまま歩いて駅へ向かった。

川沿いのマンションの駐車場で一台のポルシェが動きだした。ところが、駐車場の前の、ふだんなら傾斜していると気づくことさえないほどのわずかな斜面を登ることができない。後輪を空転させるばかりで、ずりずりと下がっていく。前進と後進をくりかえしているうちに、なんとか発進することができた。

それにしてもあのポルシェ、発進したはいいものの、あのあとどうしただろうと気になった。表通りに出れば大渋滞、傾斜の途中で停車を余儀なくされることもあったのではなかろうか。幹線の路上なら、かえって問題なかったのかもしれれないのだけど。

いつもと同じくらいの所用時間で駅に到着。駅前はバスを待つひとたちでごった返していた。電車はほぼ定刻で運行していた。


狂い咲き

紅玉に花が咲いている。狂い咲きというやつだ。11月だというのに妙に暖かい日が続いていたせいだろう。

狂い咲きだから、受粉できず、結実もしないだろう。この花は、ただ咲いて、散ってゆくだけだ。

それでもヒヨドリがめざとく花を見つけて、蜜を吸いにやってくる。


紅玉の果実

庭の紅玉に今年はたくさん実がなった。数えたわけではないが、花の終わった段階で、20個以上あっただろうか。

まずまず順調に成長していたが、7月あたりから、ぽつりぽつりと落果が見られるようになった。残念だが仕方ない。袋がけはおろか、防除も摘果もなんにもしていない。しかも栽培適地とはいいにくい気候条件である。

落ちた果実をみると、鳥につつかれたり虫がついたりして損傷していた。片隅の小さな畑に投げておいた。

ところが、最近少しようすが変わった。芝生の上に落ちた林檎をひろってみると、形は少々いびつとはいえ、傷も虫もついていない。大きさも手頃で、ほんのり赤みも帯びている。

これなら食べられるかもしれない。

その晩、皮を剝いて切ってみた。口に入れる。ややさっぱりめ、でも、ちゃんと紅玉の味がする。

以来、庭に落ちた紅玉は、傷がひどくないかぎり、拾って食べることにした。


梅と林檎

木が好きだ。

狭くてかまわないので庭がほしいとおもったのは、木が植えたかったからだった。だから、いまの家に越してきて最初にしたのは、シャベルと苗を買ってきて、庭に木々を植えることだった。

近所の林や、大学の構内で拾ったどんぐりをプランターに植え、出てきた芽を移植したりもした。

そうして植えた苗木たちは、7年ちかく経って大きく伸びた。どの木もそれぞれ、木らしい木の姿をしている。

いまは梅が実をつけている。3本ある梅の木のうちの1本だけ収穫した。残り2本はまだ早く、もう1-2週間待ってみることにした。

若い苗木のころは、毛虫が大量発生したこともあった。だが、いろいろな植物を混植し、梅の木自体も生長したためか、ここ数年は、そうした事態が生じることはない。薬品防除はしないので、毛虫は少しはいる。だが、バランスを崩すほど極端に発生することはない。

母屋の前のいちばん陽当たりのいい場所にあるのは、林檎の木だ。紅玉である。作業性を確保するために矮性台木をつかって背丈を抑えるような近年よくみられる品種に比べると、原種に近い。300年前にニュートンがながめていたような大木になる。

いまや母屋の軒の上に達するまでに生長している。春には白い可憐な花を咲かせる。そして、温暖な千葉であっても、ちゃんと実をつける。

もっとも、こちらもなんの防除もせず放置しているから、実際に秋に赤い紅玉の実として結実するのはせいぜい2-3個。大半は、それまでのあいだに風に吹かれて落果してしまう。

この時期は、朝になると小さな実がいくつも芝の上に落ちている。それをひとつずつ拾って、ゴーヤとひょうたんを植えた小さな畝の根元に投げてやった。


最近の散財:フットヒーター

しばらく前のことだが、メトロ・フットヒーター (MFH-180ET) というのを買った。仕事机の足元におき、そこに足を載せて暖めるというものだ。調べたかぎりでは Amazon.co.jp が最安で、約8000円だった。

製造元はメトロ電気工業という会社。こたつの電熱器のメーカーらしい。この製品は、まさにその電熱器だけをこたつからとりはずして天地をひっくりかえし、木製の枠に収めたようなもの。手許で操作できるコントローラーも、電源ケーブルも、こたつ用のものをそのまま流用しました、という代物である。そのぶん信頼性は高いのかもしれない。

実際につかってみると、けっこうぐあいがよい。足元が寒さでしびれるようなこともなくなった。お正月明けに届いて以来、ずっと愛用している。仕事をしているのは穴蔵のような小さな部屋(「隠れ家」とよばれている)なので、こうなると部屋の暖房もほとんど必要ない。頭寒足熱のほうが気持ちがいい。

といっているうちに、ぼちぼち暖かくなってきた。


雪の朝

市川にも雪が降った。

朝、《くんくん》がひとりで起き、着替えて出ていった。めずらしいこともあるものだとおもっていたら、すぐに戻ってきて、「雪ふってるよ!」といった。窓の外をみると、かなりの勢いで白いものが舞っている。いましがた降りはじめたばかりらしい。みるみる積もりはじめた。

《くんくん》は「雪の結晶をみる」といって、最初はてのひらに雪を受けとめていた。しかしそれでは体温ですぐに融けてしまう。

《あ》に黒い布きれをもらって、それをデッキにおいてみた。舞い降りてきた雪片がふわりと布に舞い降りる。目を近づける。「六角形!」と《くんくん》が叫んだ。

一時間もしないうちに西の空が明るくなり、青空がひろがった。積もった雪は、お昼までにほぼ消えてしまった。


めまいのするメジロ

朝、スクリーンをあげると、デッキにメジロがいた。

メジロを見かけるときは、たいてい、つがいだ。なのに今朝のは一羽だけ。横を向いたまま、身動きしない。羽が少し乱れている。もしかしたら、窓のガラスに衝突したのかもしれない。

以前にも2-3度あった。ゴン!と大きな音がする。見ると、小鳥がデッキでひっくりかえっている。ぴくりとも動かない。鳥はふつうせわしなく動いているものだが、まるで置物のようである。死んじゃったのかしらと案じてよく見ると、目はちゃんと開いている。衝突した拍子に、脳震盪でも起こしたのかもしれない。

今回もきっとそうだろう。これまではヒヨドリやツグミだったが、メジロは初めてだ。そんなことを《あ》と話しているうちに、気がついたら、デッキからメジロの姿が消えていた。

さっきまでメジロが坐りこんでいた場所には、しっかり糞が残されていた。


ストーヴ初焚き

ストーヴに火を入れた。今シーズンの初焚きである。10月のうちから焚きはじめたのは、このうち始まって以来初めてではないか。

お昼前の気温が9度に届かない。先週までは昼間は汗をかくくらいだったし、蚊に刺されることもあった。なのに一週間でこの冷え込みだ。

だらだらと暑い夏がつづいたかとおもうと、秋を飛ばして、いきなり冬がやって来たみたいである。落葉広葉樹の葉はこのあたりではまだ青々としていて、なんだか不釣り合い。

だがともかく、ストーヴを焚くの自体は愉しい。寒くなると、子どもたちも「そろそろ?」などと、そわそわし始める。

さいわい薪の備蓄はいつになく潤沢である。昨夏ストーヴ屋さんの企画薪づくりの会に参加したときにランクルの荷室いっぱいにもらってきた梨の薪が、薪小屋に積みあげられている。一年以上乾燥させたから今年はちょうど焚きごろだ。

まずそれから焚いてみた。新聞紙をまるめ、小枝と針葉樹の端材を入れ、薪をくべる。着火すると、火はなんなくついた(調子がわるいとなかなか火がつかない)。まもなく火が薪にうつり、静かに燃えはじめた。


物置小屋

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わが家に小さな物置小屋ができたのは今年の春のことだ。初めから母屋同様、趙海光さんに設計してもらうつもりでいた。物置ならスチール製の既製品をホームセンターでいくらでも売っているこのご時世になにを酔狂な、といわれるが、別にかまわない。何転かした末にできあがったプランは2間×1間、小さな窓がひとつ、吊り扉、そして杉の軸組に厚めの杉板をぐるりと打ちつけるだけの、文字どおりの小屋だった。
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『室内』休刊

雑誌『室内』が、発売中の2006年3月号をもって「一旦、休刊」する。休刊といえば、ふつうは一休みしてまた出直すのだとおもうだろう。休刊と称して刊行を停止した雑誌は数知れないが、のちに文字どおり復刊を果たしたものはいくつもない。事実上の終刊である。この最終特別号に寄せられた現在の編集兼発行人山本伊吾氏による一文に、こうある。「雑誌にも寿命はあります 見事に天寿を全うした大往生とお祝いください」。これで復刊したらゾンビである。つぎがあるとすれば、輪廻転生で生まれ変わるほかあるまい。
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