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出会う Archive

北川貴好フロアランドスケープ展

入試業務の季節となった。そのあいまを縫って、北川貴好フロアランドスケープ展を見てきた。水や植物がモチーフ。その「水」が、「生命の水」的なものではなくて、生活排水であったりするのが、いい。

会場のアサヒアートスクエアにはスタッフに教え子がいる。しばし立ち話をした。

外へでると、よく晴れた隅田川沿いの風景がひろがっていた。観光客が吾妻橋の上から写真を撮っていた。

その光景は、さっきまでいた閉じられた展示空間の「ランドスケープ」と、ぼくの意識のなかでカットバックするみたいに感じられた。


安藤忠雄先生

建築家の安藤忠雄先生にばったりお会いした。まったくの偶然である。何年ぶりだったろうか。

さるホテルのラウンジにいた。ふと顔をあげたら、いきなり安藤先生の顔が目に飛び込んできた。たまたま向かいのテーブルで打合せ中だったのだ。お邪魔して挨拶をさせていただいた。

お元気そうだった。いつもの調子で「あの本、いまでもよう売れてるで」と言ってくださった。

安藤先生とは編集者時代からのご縁である。『連戦連敗』『建築を語る』の二冊は、先生の代表的な著作だ。それらを編集者としてつくらせていただいたのだ。

先生が東大に着任されると決まったとき、これはもう講義録を出すしかないと直感した。すぐにお願いにあがることにした。ところが一面識すらない。そこで鈴木博之先生にお願いして、紹介していただいた。

そのときの反応は、けれどもあまり芳しくなかった。数週間後、一通の葉書が届いた。安藤先生からだった。「先日の話、やれそうな気がしてきました」とだけ記してあった。そうして企画が動きはじめた。

編集作業は愉しかったが、ものすごく大変でもあった。ぼくにも至らぬ点が多々ありずいぶん叱られもしたが、同時に非常に気にかけてくださった。ようするに、ひと言ではいえないほどお世話になった。

二冊とも刊行から10年以上たつ。いまでも着実に版を重ねているのだという。その累積部数たるや、専門書ということを考えあわせれば、ちょっと信じられないくらいの数字であるらしい。

そんな御本の企画と編集をさせてもらえた経験は、いろいろな意味で、かけがえのない財産となっている。


結婚式

ゼミOGの結婚式に行ってきた。

式は庭園でおこなわれた。小川治平衛が作ったという広い庭だった。秋のおだやかな陽射しに照らしだされていた。

真ん中に大きな池があり、それを背にして新郎と新婦がたった。

神前や仏前ではなく「人前」というのだという。牧師さまなどの代わりに、おそらくはじぶんたちで書きあげたのだろう、結婚の誓いの文章が、二人によって読みあげられた。それから指輪の交換がおこなわれ、記念写真を撮った。

池の見える建物の二階に場所を移して、披露宴がひらかれた。誰が選曲かはわからないが、会場には小さくエラ・フィッツジェラルドなんかが流れていた(そのうち初音ミクも流れた)。

心のこもった、いい結婚式だった。


雨具は濡らさない

登山用の雨具を買いに行った。

前のは裏地のビニールみたいな素材がついに硬化し、ボロボロと鱗のようにはがれてダメになった。20年前の安物だから仕方がない。こんどは奮発してゴアテックスの雨具にした。

会計のさい、店員さんが、「袋に入れますか?」と訊く。とりあえず「お願いします」と答えたが、なんだか妙な気持ちがした。袋に入れなければ、どうするというのだろう?

店の出口まで来ると、数人が固まって所在なさげに立っていた。外を見た。店員さんの言葉の真意を理解した。土砂降りだったのだ。頭上で雷鳴まで轟いている。

あとで知ったが、記録的豪雨だったという。新宿で74mm、練馬や相模原では90mm以上。

雨宿りをするネクタイ姿のひとたちを尻目に、傘をさして駅まで歩いた。雨はシャワーのように猛烈な勢いで降り注ぎ、煙ってしまって視界が効かない。膝から下は、たちまちびしょ濡れだ。

胸のところにビニールの袋を抱きかかえている。買ったばかりの雨具を濡らさないよう。

あれ、でも、これってあべこべだよな。

じぶんがとても間抜けなことをしているような気持ちがした。


立てつづけ

今週は立てつづけにゼミの卒業生の来訪があった。

昨日は前期のゼミの最終日だったのだが、昨年度のゼミ長が、仕事が休みになったといって来てくれた。ぼくは途中で打合せのため席を外したりしていたのだが、その間4年生の卒論の相談に乗ってくれていたみたいである。ありがとう。

せっかくだから、まだ明るいうちから飲んじゃおうかという話になった。ところが、ぼくの打合せが長引いてしまいそうな雲行きとなったため、先に彼女たちだけで目黒に行って始めてもらうことにした。

けっきょくぼくが合流できたのは、もはや「明るいうち」とはいいにくい午後7時すぎだった。店に入ってみると、すでに、卒業生と現役4年生とで、「インターナショナル・ドリンク」なる怪しげなカクテル様の飲み物を飲んで盛りあがっていた。

その前々日には、突然、卒業生の男の子が研究室にやって来た。サークルの先輩の結婚式で上京したということで、写真も見せてもらい、いろいろ話を聞かせてくれた。

で、その「先輩」というのが、よく聞けばゼミの卒業生の女子学生だった。そういえば、そんなような話を以前に聞いた気がする。

これで、一昨年度卒業したゼミの一期生たちの結婚は、3件目。昨今の状況として、早いのか平均的なペースのか、それはよくわからない。いずれにせよ、おめでたいことである。


フィアット500を見つける

よく歩く道の脇にある駐車場に、たまご色のフィアット500が停まっている。

最近は三代目をときどき見かけるが、これは二代目のチンクェチェントだ。動力性能はともかく、デザインとして完璧である。

クルマのことをよく知らないひとも、『ルパン三世カリオストロの城』でルパンたちが乗っていたクルマ、といえばわかるのではないか。知人にそう説明したら、以後彼女は「ルパンのクルマ」とよぶようになった。

大事に乗られているようだ。内装は今様にきれいにリペアされ、ボディも最近ペイントしなおされたとおもわれる。ただアンダーには錆で多少ガタが出ていた。1977年が最終発売年だから、少なくとも34年は経過しているはずだ。やむをえまい。

先日のある暑い昼下がり、いつものように通りかかったら、チンクェチェントの姿が見えなかった。出動中らしい。

他人事ながら、ちょっと心配になった。このクルマのエンジンは479cc、空冷である。暑い夏場の都内で渋滞に巻き込まれたら、たちまちエンストしてしまうだろう。

数時間後に再びとおったら、いつものようにちんまりと駐車場にたたずんでいた。

ディフェンダーもそうだが、コンピュータ時代以前のクルマやバイクは、生き物のような印象をあたえる。


戸塚でリスを見た

週に一度、戸塚にかよっている。横浜キャンパスで1/2年次の授業するためだ。

駅からは毎回歩く。職員バスもあるが、よほどのことがないかぎり、乗らない。

徒歩で通学することを、学生たちは「登山」とよぶらしい。じっさい、キャンパスは山の上にある。この時期、歩けば暑い。汗が流れる。

そうして、ふうふう言いながら、約30分かけてたどり着いたキャンパスで、今週はリスを見た。

ふと顔をあげると、リスがいたのだ。以前に木の枝の上にいるのを見かけたことはあった。だが今日はちがった。目の前のレンガの舗道のうえをこちらに向かって走ってくるところだった。

リスはぼくの存在に気づいたのか、急制動した。上体をおこして、こちらのようすを見た。たがいに目があった。全身は青味がかかった灰色。尻尾は太い。

写真を撮ろうとiPhoneをとりだそうとした。だが、あいにくビーチボーイズを聴いている最中で、カメラアプリを起動するのに手間どった。もたもたしているうちに、リスは左右に小刻みに何度か頭を振り、反転して、植え込みのほうへ戻っていってしまった。

走り去っていくリスの後ろ姿をみた。後ろ脚を左右同時に蹴りあげる。脚は真後ろではなく、少し斜め外側に開き、扇状になる。そのようにして、前後の脚をひろげ、空中に浮かぶようにして跳ぶのだった。

リスの写真を撮ることはできなかった。代わりに、並木の木漏れ日を撮影した。舗道に落ちた木の葉の陰を踏みしめながら、また歩き始めた。


局免更新

局免を更新した。

なんのこっちゃと思われるかもしれない。「局免」とは、アマチュア無線局の免許状のことだ。局免を受けると、コールサインがもらえる。

局免の有効期間は5年なので、そのたびに更新の書類を電波監理局に送って更新しなければならない。しかし、5年もたつと、そんなことはすっかり忘れている。今回も期日にまにあわなかったのだが、なんとか同じコールサインを維持することができた。

そんなふうにして、わざわざ局免を維持している者など、いまや数えるほどだろう。アマチュア無線という趣味は、いまではジャンルとしてほぼ死んでいるかに見える。ぼくも、いちおう古い無線機をもってはいるものの、ふだん扱うことがなくなって久しい。それでも局免の更新だけは続けてきた。

先日、高校時代の友人たちと新宿で会ったとき、そんな話をした。

集まった友人たちのなかに、電気部(という部活があったのです)で無線をやっていたやつが複数いた。とはいえ、あれから30年近くたったのだ。いまでは、さすがに局免を維持している人間は少なかろう(なお従事者免許のほうは一度取得すれば終身有効なのでほぼ全員が所持している)。そう予想してのことだった。

ところが、話は予想を大きく裏切るのだった。ちゃんとしっかり局免を維持している者がいたのだ。そればかりか、昨年1アマまで取ったという。1アマというのは「第1級アマチュア無線技士」のことで、アマチュア無線の最高の資格である。

かててくわえて、本職とはべつに、JARL(日本アマチュア無線連盟)の、なんだかよくはわからないが、エライひとでもあるらしい。世間の変化などものともせず、無線魂一直線。恐れ入りました。

もともと高校時代の友人たちは、どういうわけか、ちょっとおかしな連中ばかりなのだが、この歳になってもあいかわらずであった。


ねずみさんと宮本常一

もう一週間も前のことになってしまったが、島牧でねずみさんに会った。初期の村上春樹の小説にでてくる「ねずみ」ではありません。北海道の旅先でお世話になった古い友人である。

お会いするのは、たぶん十数年ぶりだ。出先から戻ってきたら、ユースの庭先に見慣れぬランクル70が停まっていた。ねずみさんの車だった。茨城古河のご実家へ帰省した帰り道だそうだ。島牧に立ち寄るのは1年以上ぶりだという。

ねずみさんは、ぼくとまったく同じ誕生月日で、きっかり一回り上。島牧ユースのヘルパーの大先輩であり、歩いて日本一周をした漂泊のひとでもある。いまから四半世紀前、ぼくが北海道へバイクで出かけて事故ったとき、病院までむかえに来てくださったこともある。ニセコの山小屋に泊めてもらったりもした。いまはミキサー車を運転しているらしい。仕事は大変だが、おもしろいよ、という。

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卒業おめでとう(2/2)

夕方からは、卒業生の主催による謝恩会が、けっきょく予定どおりにひらかれることになった。

このような状況下では自粛すべきではないかという意見もあったかもしれない。じっさい実行委員の学生たちも中止するかどうかずいぶん悩んだのだそうだ。最終的に実施と決めたかれらの決定が、外部からみて正しいといえるのかどうか、ぼくにはわからない。だが、かれらはすでに、かれら自身にはなんら責任のないところで、公式に卒業を祝ってもらう機会を奪われている。かれらが、もろもろ考えた末それでも謝恩会を開きたいと決めたのなら、それを支持してあげたいとおもった。謝恩会には、ぼくたち教員は卒業生に招待される恰好になっている。先生方はみな参加されていた。やはり卒業生たちの気持ちを汲もうと考えられたのだろう。

夕方から予測不能な大規模停電がおこるかもしれないと経産省が警告を発するなか、会場へ向かった。街をゆくひとや車の数は、心なしか少ない。

会場は大学からさほど離れていない場所にあった。一歩足を踏み入れると、そこには『千と千尋の神隠し』の湯屋みたいな巨大な空間がひろがっていた。パリのグランパレもかくやといわんばかりのガラスの大屋根の下に、茅葺きの屋根の家並みが再現されている。池があり、橋がかかり、植え込みがしつらえられている。桜の飾りつけが華やかだ。

ゴージャスである。けれども、雰囲気がどうも妙だ。節電のためだろう、照明が落とされている。そして、ほとんど人影がなく、しーんとしている。たんに閑散としてさびしいというのではない。あるべきはずの人影が不在という、喪失感に似た感覚である。

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