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グーグル・ブック検索

『思想』とグーグル和解

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グーグル・ブック検索に絡んで、グーグルと米国の著作者団体が締結する和解が、ベルヌ条約を介して日本にも波及し、春にはグーグルによる公告もなされた。2003年に出版したぼくの著書も対象になっているらしい。

グーグルが、書籍のデジタル化や公開を視野におさめたプロジェクトを開始したのは2004年だから、もう5年も前のことだ。ぼくはこの問題にかんして論文を書いたこともあるのだが、しかしこれまでは、日本の出版業界のなかでまじめに耳を傾けてくれるひとは、ほぼ皆無だった。いまになって日本の出版産業は大騒ぎしているが、これまでの経緯も文脈も理解できているようにはおもわれない。そのさまは、新型インフルエンザで大騒ぎしているようすと二重写しになる。

で、このグーグル和解に関連して、発売中の『思想』6月号(岩波書店)が小特集を組んでいる。中心にあるのは、2月に The New York Review of Books に載ったロバート・ダーントンのエッセイの翻訳だが、そこに実務家による解説や歴史家による論考がならぶ。

かくいうぼくも、論文を寄稿している。題して『〈書物〉の不自由さについて──〈カード〉の時代における人文知と物質性』。グーグル的な様相をどう捉えるべきか、というようなことについて、メディアの思想的問題として書いた。

今日日『思想』がどれだけのひとの手にとられるものかぼくは知らないが、この小特集は一読の価値があるとおもう。


グーグル切断

7月5日、グーグル・ブック検索が、ついに日本語版の運用を開始した。同サービスは、米国では2004年に開始されている。書籍の全文検索を可能にするというものだ。

グーグル・ブック検索は、出版や書物という観点からすれば、決定的である。その登場以前と以後とで、出版あるいは書物というもののあり方やイメージを決定的に変えてしまう可能性を含んでいるからだ。「変えてしまう」というのは、はっきりいえば、「解体」だ。むろん単純な良し悪しの問題ではない。

おもえば、これまでに存在した出版の電子化にかかわる議論や実践は、反抗期の中学生みたいなものだった。純粋でナイーヴ。だがグーグル・ブック検索は違う。徹底的に違う。ここから異なるモードに移行したのだ。この切断線を、ぼくは「グーグル切断」(Googlian Cut) と名づけた。「デカルト切断」(Cartesian Cut) のもじりである。

米国においては、どうか。既存のセクターとの関係でいえば、総じて図書館からは歓迎され、出版業界は賛否二分といったところだろう。

図書館や一部の出版社にしてみれば、グーグルがその資金と技術でもって自社の刊行物を電子化してくれるのなら、こんなうまい話はない。シメタ!とばかり、飛びつく。ダボハゼ状態である。一方で、大手出版社やアメリカ大学出版部協会は、著作権を侵害し、既存出版社のビジネスモデルを破壊するものだとして、グーグル・ブック検索を目の敵にし、訴訟にもなっている。しかし、この期に及んで、けっきょく著作権しかよりどころがないこと自体が、既存の出版産業の立脚点がかかえる限界を露呈したものだといわねばなるまい。

出版産業は、書物を売って利益を得る。グーグルは、検索エンジンを利用するユーザーを標的とした広告で利益を得るのであり、そのためにネット上の検索資源自体を増やそうとする。両者の世界観が相当に異なっていたとしても、なんら不思議はない。グーグルから見れば、書籍は、質量ともにまとまって存在するもっとも潜在的可能性の高い検索資源だ。葱を背負った鴨がそば屋の店先で昼寝しているようなものである。

グーグルだけではない。MSもアマゾンもここに狙いを定めて、さまざまな手を打ってきている。デジタルメディア社会において、だれが「書籍」を領有するのか。どうやらガチンコ勝負のたたかいが始まってしまったようだ。


学会ふたつ

週末は学会に行かなければならなかった。土曜は記号学会(駒場)、日曜は出版学会(紀尾井町)である。前者は「〈記号〉としてのテレビ」ということで、テレビの映像コンテンツを記号論の対象としていくための戦略と方法が論じられ、興味深いものだった。基調講演のなかでとくに印象に残ったのは、テレビ映像を読み解くためには、「ジャンル」という「約束」から行わなければならないというフランソワ・ジョスト氏(パリ第三大学)の指摘である。つづいて行われたラウンドテーブルからも多くの示唆をうけた。増澤洋一さん(千葉工業大学)による「プロジェクトX」の分析は、テレビ映像はどのくらい「言語」であるかという実証的な研究、原宏之さん(明治学院大学)のテレビ・コンテンツの「外部」をいかにコンテンツ研究に取り入れていくかという議論、和田伸一郎さん(大阪医科大学)はテレビのメディア=「形式」として「テレビ映り」という水準を設定して話をされた。「形式」はいくつかの水準に腑分けして考えていく必要があるだろうが、もしマクルーハンがいうように「メディアはメッセージ」なのだとしたら、それはメディアの水準もまた記号論の対象となりうることを含意してもいる。それが、ここで発表されていた「コンテンツ研究」とどのようにつながっていくのか、その見通しについて知りたいところである。
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