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ナショナリズム

ナショナルメディアとしてのテレビ

サッカー・ワールドカップ日本代表はとうとう16強に進出した。カメルーン戦での勝利以来、オランダ戦の健闘をへて、デンマーク戦は守備のみならず攻撃も積極的で、圧倒的にたたかっていた。

そうした姿をみるべく多くのひとたちがテレビに、あるいはパブリックビューイングのスクリーンに向かい、同じ時間に同じ試合中継番組を視聴し、その経過に一喜一憂して、勝利という結果と、それによって達成されたアウェーで初の16強進出という快挙をよろこぶ。

そうした様子をみるにつけ、あらためておもう。テレビはナショナルなメディアなのだと。

もちろんテレビに限らず、ラジオにせよ新聞にせよ広告にせよ、マスメディアとはおしなべてナショナルなものだ。ではあるものの、とりわけテレビにおいて、その性質は強調されているようにおもう。

テレビ受像器の画面にうつしだされるひとびとは口々に「同じ日本国民として誇りに思う」「勇気をもらった」などという言葉を口にしてはばからない。文筆でたべている新聞記者やサッカー・ジャーナリストでさえ、種々の記事に「日本人に生まれて良かった」と書いていたりする。

かれらの反応に通有されるキーワードは「国」「国民」「日本人」など。前提にあるのはナショナリズムである。ただし、政治的な立場はどうであれ、「ナショナリズム」という言葉だけに過敏に反応していてはいけない。

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映画『ウォー・ダンス──響け僕らの鼓動』

こちらの作品もやはりドキュメンタリー。『ヤング@ハート』()が高齢者を対象としていたのにたいして、こちらは子どもたちが主役である。舞台はアフリカ・ウガンダ北部の内戦地帯。内戦孤児など紛争の犠牲になった子どもたちが、音楽やダンスをとおしてアイデンティティの再構築を図る。

この作品で強調されるのは、「死」の影からの離脱である。孤児たちは、紛争によって肉親を失ったというだけではない。この内戦において、子どもはむしろ巨大な争点のひとつである。子どもをさらってむりやり兵士にしたてあげ最前線にたたせる事態が恒常化しているため、子どもたちはつねに存在論的な恐怖にさらされつづけている。難民キャンプにいる子どものなかには、実際に大人の殺害への加担を強要されたりした経験をもつ者さえいる。

ほとんど人間であることを剥奪されているような極限状況の凄惨さは、したたるほど濃厚な大自然の描写によっていっそう強調される(演出手法としては常套だが、かなりあざとい印象をうける)。その血塗られた「死」の影のただなかから、かれらを救いだしうる唯一の具体的手立て。それが音楽とダンスである、と描かれる。

アイデンティティを獲得するためには他者による承認が必要だ。子どもたちはそのために、首都──北部の紛争地域とは対照的に平和で近代的であり、落差が強調される──でおこなわれるウガンダ版ダンス甲子園(国家主催らしい)のような全国大会に挑戦することになる。その目標に向けて厳しいトレーニングが課され、そのなかで子どもたちの立場や事情がもたらすさまざまな差異が埋められてゆく。その過程は、音楽を媒介にすることで、かれらが否応なく投じられていた「死」の世界から「生」に向けての脱出行だといえる。そして最終的に、自信と誇りをとりもどすきっかけを得るまでに至る。

その過程で獲得されてゆく「生」は、木琴奏者として認められる少年を除けば、みずからが帰属する部族の一員という形でのアイデンティティ再構築によってもたらされる。内戦によって「死」に包摂されざるをえなかった子どもたちが、アイデンティティをとりもどす過程をとおして、けっきょくはナショナリズムの地平に回収されてゆく。製作者側の意図とは(おそらく)裏腹に、その過程はそれ自体、内戦のようなものとは異なる別の凄惨さを含んでいる。子どもたちもまた、かれら自身の「生」を奪ってきたはずの内戦当事者──政府や反政府勢力と同じ論理の枠組みに着地してゆくのだから。

その観点からすれば、音楽もダンスもむしろ動員のためのメディアとして描かれているといわねばなるまい。

わたしたちがナショナリズム的想像力からどれほど自由でないかを思い知らされると理解すべきなのか、それでも血が流されないだけまし、とうけとめるべきなのか、あるいはその両方なのか。


映画『靖国 YASUKUNI』

公開前になにかと話題になったが、ふつうのドキュメンタリー映画である。リ・イン監督の立場は明瞭で一貫している。だが、まっとうなドキュメンタリーがすべてそうであるように、特定のイデオロギーで一個の作品を単純に白か黒かに弁別しようとしても、不毛なだけだ。

スクリーンには、毎年8月15日に靖国神社で生起するさまざまな光景が映しだされる。その光景は、いずれも暴力によって髄まで浸透されている。

旧日本軍の軍服を着て隊列を組み参拝するひとびと。多分にカメラを意識したかれらのふるまいに、拍手を送る「一般」の参拝客。小泉支持のプラカードと星条旗を掲げる米国人。かれに話しかけビラ配りを手伝う日本人参拝客。逆に、ここは星条旗を掲げる場所ではないと意見したり、ここから出ていけと迫るひとびと。合祀反対の抗議に訪れる台湾・韓国などの遺族たち。追悼集会に乱入して抗議のアジテーションをする若者たち。かれらに「中国人か? 中国に帰れ」と迫って袋だたきにする参列者たち。その若者は、保護した警官にたいして、こんな怪我はなんともありませんといって、みずからの政治的主張を声高にくりかえす。……

靖国神社にかかわるひとびとは、その立場や信条にかかわらず、その言動が暴力におかされてゆくという点において共通する。ふるまいも言葉も類型化され、ただちぎっては乱暴に投げつけられるばかりで、けっして切り結ばれることはない。

暴力にとことん浸透された光景のあいだに挟み込まれるのが、現役最高齢の刀匠の姿である。

靖国神社の御神体は日本刀であり(神社側の公式見解は少しちがうらしい)、戦時中、「靖国刀」とよばれる軍刀が多数鋳造され、軍人に与えられた。刀匠は、その靖国刀をあらためて鋳造しようとしているのだ。鉄を熱し、たたき、靖国刀を仕上げてゆく。刀匠の姿は職人らしく黙々として、鋳造という仕事に徹底して忠実である。

その寡黙で静謐な忠実さは、8月15日の靖国神社境内を満たす絶望的な暴力とは、著しい対照をなす。しかし、最後の靖国刀がついに完成したとき、まさにその靖国刀において両者は合一する。その様相に、過去においても現在においても、ナショナリズムがひとびとの生を二重に強奪してゆく酷薄なさまを見出すことができる。

一部発言が聞き取りにくい。英語字幕付きだったので、それを助けにした。観客の年齢層は全体に高め。あとで、アレクサンドル・ソクーロフ監督の『太陽』を観たときの雰囲気に似ていたとおもいあたった。


グアムと日本人

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関西大学の山口誠さんから新著が届いた。『グアムと日本人──戦争を埋め立てた楽園』(岩波新書)だ。

光を観る、と書いて「観光」である。観光に出かける者は「光」しか目にすることはない。そもそも観光地も観光客も、そのように建造されている。けれども、光あてればつねに影ができる。影とは、観光の対象に相応しくない──つまり消費の記号にそぐわないとされるその場所の歴史や記憶である。グアムのばあい、それは明らかに戦争だ。太平洋戦争の終結ののちこの島は、一方で旧日本兵の生き残りを密林にかかえたまま、もう一方で、日本人向けの「南島パラダイス」的観光地として転生を図るのだが、そのさい戦争の影を表象によって隠蔽していく。これを山口さんは「記憶の埋め立て」とよぶ。的を射た言い方だとおもう。山口さん、ありがとうございました。ちなみに、ぼくはグアムには行ったことがない。

たまたま──なのだが、今日は広島原爆投下62年目の日だ。この季節がくるとマスメディアはこぞって戦争をとりあげる。たしかにジャーナリズムの一種のパターナリズムだろうし、それを批判するのはそうむずかしくない。だが、たとえそうであっても、あらためて戦争と、戦争の記憶について考えるきっかけになるのなら、それなりに意味はあるだろう。いまこの瞬間もまだ、世界は戦時下にあるのだし。


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