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北大

野菜と札幌

旅暮らしで困るのが野菜である。摂取の機会がふだんよりずっと減る。基本的に外食ばかりなので、自宅にいるときのような食事内容など望むべくもない。

札幌で泊まっているのはごくベーシックなビジネスホテルだ。朝食も、よくあるビュフェ形式である。ところが、ここは野菜類のおかずが多く出る。ゆでたアスパラガス、ブロッコリー、刻みキャベツ、トマト、ほうれん草のおひたし、おくら、かぼちゃの含め煮、とろろなど。うれしくなって子どもみたいについあれもこれもととってしまい、結果として食べ過ぎて、からだが重くなる始末である。朝から晩まで授業しているといっても、疲労感に釣りあうだけの運動量があるわけではないのだ。

ビジネスホテルとして、ここはちょっと変わっている。ウィークリーマンションみたいなのだ。部屋も設備もやや古びている。ソファには小さな穴があき、ベッドはやたら幅が狭く、バスルームも狭くて、むろんウォシュレットなどついていない。一方で、洗濯機と乾燥機が各部屋に備えつけてあり、無料でいつでもつかえ、ミニキッチンがあって、ヤカンと魔法瓶が常備されている。建売住宅の子ども部屋によくあるような勉強机が据えつけられ、卓上ライトまで備わっている。コンビニやスーパーも至近。すすきのからは離れているが、目の前の駅から地下鉄を利用すればすぐ。その気になれば歩いてだって行けなくもない。でも学生御用達ふうの飲み屋なら、周辺にいくらでもある。

観光客に向くかどうかはわからないが、ぼくはけっこう気分よく過ごしている。北大キャンパスまで歩いて1分だし。──といいつつ、そんな札幌生活も、そろそろ終わりとなる。


方法としてのデジタルストーリーテリング

デジタルストーリーテリングで映像作品をつくります──というと、いろいろな学生があらわれる。

少数ながら毎回混入しているのが、勘違い系とでもいうのだろうか、映像製作という愉しげな言葉だけに釣られてやってくるタイプの学生である。かれらの特徴は、おのれの「感性」とやらを実現したいという欲望にのみ忠実なことだ。たいていのばあい、かれらの語る「感性」とはいたって凡庸なステレオタイプであり、とりたてて独自性の感じられるような類のものではない。ひとりよがり、混乱、じぶんだけが勝手に気持ちのいいマスターベーション。だから他の学生やぼくのコメントやアドバイスにたいして、まるで耳を貸す用意がない。かれらの関心はおのれの欲望を満たすことだけにあるのだから、当然といえば当然だろう。受講態度は、いきおいまじめとはいいにくいものになる。まじめとは、けっして、くそまじめという意味ではない。課題に真摯に取り組む姿勢が欠落しているということだ。

ではまじめな優等生がいいかというと、それもちがう。かれらは答えを先回りして察知する術には長けているが、答えのあらかじめ定まっていない問いに向きあい、じぶんの知力をふりしぼって、粘り強くものを考えることには慣れていない。「答え」は教員が隠しもっているという発想のなかに棲みついている。相談と称して「答え」を探りにやってくる。ぼくのアドバイスを聞いたあとの決まり文句は「××すればいいんですか」「△△すれば大丈夫ですか」である。

むろんかれらとて、じぶん自身の語るべきテーマはもっているにちがいない。だがそれは分厚い皮膜に覆われ、ふだんは本人ですら触れられない深みに格納されている。かれらがまずしなければならないことは、その皮膜を一枚ずつ引きはがし、じぶん自身を掘ってゆくことだ。

他方で、課題を説明した段階で、すでに語るべきテーマを見つけだしている学生もいる。えてして優等生でも目端の利くタイプでもなく、どちらかといえば一見冴えないほうかもしれない。かれらに共通しているのは、じぶん自身ではどうにもできないような、少なくとも当人にはそう感じられて閉塞してしまうような状況を経験してきたことである。

今回の函館のばあい、小中高といじめにあっていたという男子学生が、その典型だった。高校までのいじめの経験もあって、生来の引っ込み思案に拍車がかかり、ひととどう距離をとっていいかわからず、じぶんの殻に閉じこもっていた。大学に入学しバス通学の道すがら車窓を眺めているうちに、それが毎日変化していることに気づいた。そのことから、まわりのことをあれこれ言うよりも先に、じぶん自身を変えなければならないと気づく。そこで勇気をだしてじぶんから同級生に話しかけてみる、というお話である。

かれのようなケースでは、ぼくにはもうほとんど何も言う必要がない。むしろ過剰に介入して邪魔をしないよう気をつけるべきである。いつものごとく途中何人もの学生が受講からフェードアウトしてゆくなかで、かれは粛々とじぶんのするべき作業をすすめた。できあがった作品は、期待に違わず力のこもったよい作品だった。同時にかれのチームはひとりの脱落者をだすこともなく、全員がさいごまで走りきった。

映像制作といえば、昨今あちこちの大学で流行っているようだが、その大半は既存マスメディアの物まねをさせて学生をよろこばせるか、ノウハウの習得か、でなければ「情報伝達」という側面ばかりを無邪気に強調したものだ。そこで忘れられているもののひとつが、作品性である。

乱暴を承知でいえば、ぼくにとっていまや「情報」などどうでもいい。大事なのは「人間」であり「作品」であり、そして人間が作品をつくり、流通させ、それに接するという事実のほうだ。作品は、才能とテクニックとによって捏ねあげられるものではなく、ひとりの人間としての存在になんらかの形で触れることで成立する。作品が根本においてもつ批評性とは、そこにかかわっている。そのことをこの授業のどこかで実感してもらえば、ぼくとしては十分だ。

ただもう一方で、ぼくのデジタルストーリーテリングのこうしたやり方は危うさをはらんでもいる。一歩まちがえば批評性が骨抜きにされ、容易に自己啓発セミナーやセラピー的なノウハウへと転落してゆきかねないからだ。むろん制作という実践からそのような陥穽を完全に排除することは、原理的にできない。仮にできたと主張するものがあったのなら、そうした安全安心な過程が生産するのはたんなる製品でしかあるまい。個人的には、すでにワークショップという手法自体が、そのような道筋をたどって骨抜きにされつつあるように感じている。

これまでのところ、そこへ滑落せずになんとか踏みとどまっていられる最大の理由は、その怖さをつねに意識するようにじぶん自身を仕向けているからだ(もうひとつの土台は、編集者時代に蓄積された経験である)。

ぼくのこのやり方は骨の髄まで文脈に依存したものである。学生がどんなアイディアをもってくるかは、やってみなければわからない。経験や予想では対処しきれない事態が表出しても、その場でただちにもっとも適切な対応を選択しなければならない。ぼくが頼りにできるものといえば、わずかばかりの知識や、これまでの経験とそこで培われた感覚だけだ。それらを総動員して授業にのぞむのだが、そこまでしたところで、つねにうまくゆく保証などどこにもない。こんな方法をマニュアル化してユニヴァーサルに適用しようとするのなら、そのとたん、そこには転落への道が巨大な口を開けて待っているにちがいなかろう。

いま北大で実施している集中講義でも、理学系の修士院生を対象にデジタルストーリーテリングをおこなっている。おどろくべきことに、2名の先生が院生にまじって受講されている。その姿勢にはほんとうに頭が下がる。ぼくの授業にそれだけの価値があるかどうかはともかく、かれらがぼくのやり方から何らかの霊感を得てくださり、デジタルストーリーテリングが日本でもさまざまな形でひろまってゆくとしたら、うれしいことである。

ただ上述のとおり、ぼくの方法は根本的なところでぼくの個性に依拠している。デジタルストーリーテリングといっても、べつにがっちり固まった方法論が存在するわけではない。いろんな方法がある。先行事例を参照しつつ、各自がそれぞれの個性や目的や文脈にかなったやり方を、試行錯誤をとおして編みだしてゆく。それがけっきょく、最善の道だろう。ぼく自身もそうしてきたのだし、いまもそうやって実践から多くを学び、貴重な霊感を得ている。だからこそ、細々とではあれ、実践を重ねつづけられているのだとおもう。


北大エコ・ガイダンスin東京

お知らせひとつ。

昨秋お世話になった北大CoSTEPから、イベントを東京でひらきますとのご案内が届きました。高校生が対象とのことですが、気分が高校生なら実年齢は問われないみたいです。

リンクは貼っていませんので、すみませんがURLをコピペして飛んでください。

———————————————————————-
この度、北海道大学 科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)では、高校生のためのイベント『北海道大学 エコ・ガイダンス in 東京』を下記のとおり開催することになりました。CoSTEPの実習の一環として受講生が企画、運営するイベントであると同時に、洞爺湖サミットに向けての北海道大学の全学的取り組み「サステナビリティ・マラソン」の一環でもあります。高校生を主対象としておりますが、それ以外の方も参加可能です。お近くに関心のありそうな方がいらっしゃいましたら、ぜひご案内いただけますようよろしくお願い申し上げます。

*****************************************************
北海道大学の研究者と学生が、東京・表参道で「環境」をキーワードに語り合う
『北海道大学 エコ・ガイダンス in 東京』
*****************************************************
と き:3月8日(土)PM 2:00〜3:30 ※PM1:30より開場
ところ:環境パートナーシップオフィスEPO
(東京都渋谷区神宮前5-53-67 コスモス青山B2F)

http://www.geic.or.jp/geic/intro/access.html

主 催:北海道大学 科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)

http://costep.hucc.hokudai.ac.jp/

※文部科学省の「科学技術振興調整費・新興分野人材養成プログラム」に採択
され、2005年10月に北海道大学が開設した、科学技術コミュニケーターを
育てるための教育組織です。科学技術コミュニケーターとは、科学技術の専
門家と一般市民との間で、科学技術をめぐる社会的諸課題について双方向的
なコミュニケーションを確立し、国民各層に科学技術の社会的重要さ、それ
を学ぶことの意義や楽しさを効果的に伝達しうる人材です。
協 賛:北海道大学 工学部 ヒューマンリソース推進部

■プログラム概要
パートA:キャンパス・エコツアー
一緒に北大キャンパスのエコポイントを回ろう!
実際のキャンパスの映像を用いながら、
環境に関する研究に取り組む北大生が各ポイントを案内します。

パートB:トークセッション「環境と調和する持続可能な社会に向けて」
「今、必要な技術」のための研究・開発を通じて
環境の価値、環境と共存することの重要性・可能性を伝えます。
ゲスト
・信濃 卓郎氏(大学院農学研究院 生物資源生産学部門 准教授)
根圏微生物と植物の共生関係の確立について研究し、植物が元々持つ
能力を農業に活用することを試みられています。
・須田 孝徳氏(大学院工学研究科 材料科学専攻 助教)
水素吸蔵合金のさまざまな物性を研究されています。
この成果を活かして、他の先生と一緒にローエネルギーハウスで
未来のエネルギー貯蔵方法・水素燃料電池を開発中です。

併せて、実際に北海道大学キャンパスで行ったエコツアーで使用した「自分で作るキャンパス・ガイドブック」「ミッションシート(ガイドポイントに関する設問が書かれた子ども向けのMAP)」「音声ガイド」も展示します。

■参加対象:高校生(一般の方でも構いません)
■定員:50名 ※先着順となります。
■締切:3月5日(水)必着
■お申し込み方法:
1)氏名(ふりがな)、2)年齢、3)学校名・学年、4)E-maiを明記の上、
下記のお申し込み先までE-mailでお申し込みください。
※このお申し込みでいただいた情報は、このイベントの受付や連絡、企画の
参考とする以外の目的で利用することはありません。
■お申し込み・お問い合わせ先:
北海道大学 科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)
E-mail ecotour@costep.hucc.hokudai.ac.jp
※お申し込みのE-mailをお受け取り後、折り返しE-mailにて受付完了または
定員満了のご連絡を行います。3日以内に連絡がない場合、お手数ですが再度
お問い合わせください。

※同じ内容を、以下のURLでも見ることが出来ます。

http://costep.hucc.hokudai.ac.jp/event/detail.php?id=81&type=event

※イベントのポスターのデータです。

http://sw2008.jp/marathon/img/CoSTEP0308.pdf


CoSTEP教員募集

お知らせ。先日授業をしにうかがった北大の科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)で、来年度の教員を募集しているとのこと。必ずしも大学院など通常の研究者養成の経歴を経ていなくても、ビジョンとスキルと熱意があれば応募歓迎らしい。詳しくはこちらでどうぞ。


札幌

札幌にいる。北大の科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)で授業するためだ。テーマは「伝えるって、どういうこと?」。本来は2限と3限の2コマなのだが、あいだのお昼休みが90分もあるというので、そこも取り込むことにした。簡単なワークショップを含めた内容になる予定。

それにしても、札幌は寒い。昨夕、この春から北大で教えている玄武岩さんと、CoSTEPの難波さんの三人で薄野を歩いているとき、電光掲示板の表示は気温8度だった。東京なら立派な冬である。夜には雪が降るかも、と脅されていたが、さすがにそれはなかった。

ナナカマドの紅葉が目に染みる。これからキャンパスまで歩いていく。


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