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散歩

青面金剛

松戸に用ができたので、歩いてゆくことにした。小一時間かかる。

表通りから一本入った住宅地のあいだを抜ける。市川のほかの多くの道と同様、狭くて、自動車ならすれ違いに難儀するが、歩くにはぐあいがいい。さいわい猛暑の日中だったせいか、通行量は少ない。

歩いてこの道をゆくのは初めてだ。徒歩だと微地形がよくわかる。右側は斜面になっていて谷筋。左側は高台の上で平ら。農家があるのは右側のほう。梨農家が店先に幟をだしている。あいにく今日はお休みらしい。

道は市の境界線にもなっている。右手が市川、左が松戸。とうとう右手に市川の尽きるところまで来た。この先は左右どちらも松戸だ。

角に小ぶりの石塔がたち、生花がお供えしてある。正面に「青面金剛」と彫られてあり、庚申塔とわかる。左の側面には「南いち川、西まつど、北金ケさく 道」と彫られている。ここは古代官道以来の道筋なのだという。

道はいまも金ヶ作(松戸市)へつづいている。だがこの少し先からしばらくの区間は、1970年代に実施されたらしい大規模な宅地造成のための区画整理によって、完全に消滅してしまっている。

書評『荷風と東京』

紀伊國屋書店の運営している書評サイト『書評空間』に書評を書いた。投稿するのは、たぶん一年ぶりくらいではないか。
http://booklog.kinokuniya.co.jp/hasegawa/

とりあげたのは川本三郎さんの『荷風と東京』である。川本さんの街歩きエッセイが好きで、よく読む。この本も単行本で出たときに買ったのだが、なにしろ大部なのと、ぼくが怠慢なのとで、積読状態だった。少し前に岩波現代文庫版で上下二巻本として刊行されたのを期に読んでみた。これがすごくおもしろい。もっと早く読んでおけばよかった。それで書評を書きたくなったというわけ。

『書評空間』というサイトは、たとえば新聞書評や雑誌のそれとは違って、編集サイドからの働きかけが一切ない。書くも書かぬも、どの本をとりあげるかも、書き手の自由。なんら注文されない。締切もない。その代わり、督促もない。最近では担当者もよくわからないくらいだ。

そんなわけなので、ペースはひとそれぞれ。ぼくもとにかく気が向いたときに、とりあげたい本について、好きなように書く。

ただし「好きなように」という表現には多少の留保がつく。個人的なスタンスとして、書評はできるだけ読者や読書を拡げるようなものでありたいとおもっている。だから、せっかく執筆する場を与えてもらえる以上、少しでもその方向に貢献できるような書評を書きたい。そう考えている。

もっとも、かなり気合いを入れないとものが書けない性分なので、現実にはなかなか投稿数は増えない。それもまあ、よし。

ひぐらし

いつのまにか日の暮れが早くなった。夏至のころは午後7時をすぎてもなお明るかった。ところが昨夕、窓外の暗さに気づいて時計をみると、午後7時5分だった。

子どものころから、お盆の時期は夏休みも佳境というイメージがあった。日が暮れるまで遊んでいるのだが、なかなか日が暮れず、いつまでも外で遊んでいられた。そんな記憶がある。

だが、落ち着いて考えてみると、夏至からすでにひと月半がたっているのだ。日が短くなってあたりまえだ。だとすると、ぼくのなかにある夏休みのイメージは、どこで得られたのか。子どものころは日の長さや時刻のことなど、さほど気にせずに暮らしていたのだろうか。あるいは、ぼくの記憶が相当に変形させられたものなのだろうか。

この時期、ヒグラシの鳴き声を耳にする。図鑑などには「カナカナカナ」と鳴くと書いてあるが、ぼくの耳には「ヒョヒョヒョヒョヒョォ」と聞こえる。この鳴き声が、子どものころから苦手だった。もの悲しいというより、怖いのだ。なんだか亡霊でもでてきそうな気がする。あれがセミの仲間だとは、どうしても信じられない。

先日も夕方ちかくに近所の森の横をとおった。「ヒョヒョヒョヒョヒョォ」と聞こえてきた。やっぱり怖かった。

まぶしい草野球

6年生になったばかりのある日、《なな》は突然、子供会の野球部に入部した。以来ほぼ毎週末、熱心に野球の練習に明け暮れている。その試合があるというので、見にいった。

行く先は、江戸川河口ちかく。巨大なパワーショベルやダンプトラックが整列しているなか、未舗装路を分け入ってゆくと、ふいに視界が開けた。土手の間際に草原がひろがっている。そこが野球場だった。

地域の少年野球関係者が、長年かけてこつこつ整備していたところらしい。きちんとネットを張ってグラウンドを囲ってあるばかりか、単管パイプを組みあわせて、ベンチやネット裏のスコアラー席までが用意されている。

三塁側の、甲子園でいうとアルプススタンドにあたるような場所で、試合を見物させてもらう。かんかんと陽射しが照りつける。乾いた川風が吹き抜け、そのたびにグラインドで巻きあがった土埃が襲来する。外野手が草にスパイクを埋めるようにして守っているすぐ前を、燕が地面すれすれに飛び去ってゆく。

県大会進出が許される6強入りをかけた決戦だった。しかしぼくたちが到着したとき、すでに試合は4回裏。3-7で《なな》たちのチームは負けていた。その後おたがいに点を入れあうが、つねに追う展開。6回表を終わった段階で、6-11。あとは裏の攻撃を残すのみとなった。少年野球のルールということで、試合開始から90分を経過したばあい、その回終了時に同点でなければ、そこで試合終了となるのだという。

5点差あったが、負けていなかった。アウト2つをとられながらも4点を入れ、1点差まで迫った。ぼくたちの横には、隣町の野球部の子たちがいて、大きな声をだして応援していた。しかし、3塁に同点のランナーを残しながら、とうとう力尽きた。10-11。選手の子どもたちは目を真っ赤にして泣いていた。《なな》はずっと控えだったが、最後に整列したときには、やはり泣いていた。

スカイアクセス

新型のスカイライナーが、江戸川をはさんで往ったり来たりしている。ゆっくり姿をあらわして橋をわたり、トンネルに消えてゆく。15分もするとまた戻ってくる。そのくりかえし。

先日来、散歩にでるたびにこうした光景をみかける。日暮里と成田空港を最速36分で結ぶというスカイアクセス開業を一カ月後にひかえ、テスト走行をくりかえしているのだろう。北総線の矢切駅は、各停しか停まらないのになぜか島式ホームが2本あり、常時2線が空いている状態である。そこを利用して往復しているものとおもわれる。

現行のスカイライナーは、エアポート特急という位置づけにしては貧相で、そこが京成らしいといえばらしいのだが、新型のほうはどうだろうか。日暮里・成田空港間ノンストップらしいから、あいにく乗車する機会はなさそうだ。当分はながめるだけで、がまんしなければならない。

ウルトラマンエース

散歩コースの途中にウルトラマンエースがいる。いつもベランダに立ち、右手を突きだして律儀にポーズを決めている。

わざわざ遠回りしても、その前を通ってしまう。その姿を眺める。よく見るとからだを鎖で縛りつけられている。《くんくん》が気にしているのは左腕だ。途中で折れてなくなっており、先が錆びている。

そうしてまでここにエースが立ちつづけているのに、どんな謂われがあるのかはわからない。驚き、うれしさ、さびしさ、もの悲しさ、……どれと一言でいい表しきれない気持ちをいだきながら、やっぱり今日も来てしまった。そして、やはり言葉少なにその姿を眺めるだけ眺め、静かに帰途についた。

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