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神話論理

レヴィ=ストロース死去

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今年の物故者はどういうわけか、ぼく自身にとって重要な人物が多い。報道によれば、クロード・レヴィ=ストロースが亡くなった。今月末には101歳の誕生日を迎えるはずだった。

門外漢ながら人類学には若いころから興味があったので、ある時期からレヴィ=ストロースをこつこつ読みはじめた。すると、それがたとえばマクルーハンなどに大きな影響を与えていることに気づかされることになる。有名な「熱いメディア」と「冷たいメディア」という言明は、『人種と歴史』にとりあげられる「熱い社会」と「冷たい社会」の図式を直接下敷きにしている、などというように。そんなこと、たぶんほとんど誰も指摘してくれてはいない。『野生の思考』や『神話論理』などの業績は、〈アトラクション〉のような技術と身体のポストモダンな関係を考えるうえでも不可欠の考え方を教えてくれているだろう。

レヴィ=ストロース自身は人類学者とよばれるのを好んだようだが、その業績は明らかに狭義の人類学という一専門にとどめられるべきものでない。構造主義的現代思想の祖というような一般的な言い方も、まだまったく不十分だとおもう。

故人の冥福を祈る。


レヴィ=ストロース『生のものと火を通したもの』──『神話論理』刊行開始

必読の書である。長く未邦訳だったレヴィ=ストロースの大著『神話論理』(原著で4分冊、邦訳では5分冊の予定)の翻訳が、第一巻『生のものと火を通したもの』をもって、みすず書房から刊行されはじめた。同(訳)書の学問的位置づけについては、ほどなくして多くのひとびとが書くことになるだろう。同巻の原著の刊行年は1964年、みすず書房が翻訳権を取得したのが1966年というから、じつに40年がかりで実現に漕ぎ着けた翻訳出版、ということになる。レヴィ=ストロース自身は原著4巻を7年ほどで書き終えており、そのあとに書いた『やきもち焼きの土器つくり』などのほうが先に邦訳されていた。ここまで時間がかかった理由には、途中、『野生の思考』の名訳で知られる大橋保夫先生が亡くなったりしたことと無関係ではなかったかもしれない。

同訳書刊行という事業の重要性は、この浩瀚な書物を日本語で読むことができる点だけにあるのではない。わたしたちが忘れかけていた「出版者」(「社」ではない)の態度のひとつを示してもいる。近年では翻訳権の有効期間は2年間というケースが多く、期限内に刊行できなかったばあいには更新する必要がある。むろん更新せずに翻訳権を返上するという選択肢もある。みすずは途中で翻訳権を返上して刊行をあきらめることなく、そのつど更新料を払いつづけてきたわけだ。これは経営的には苦しい道である。この間、版元の財布からはひたすらお金が出ていくばかりで、一銭も入ってこないからである。短期的な(さらに「中期的な」を加えてもいい)経営収支だけを考えれば翻訳権返上という選択肢があったはずだ。途中で迷いが生じた時期もあったのかもしれないし、たんにたまたまの成り行きだったのかもしれないが、結果的に翻訳権を返上することをしなかった。ただはっきりしているのは、刊行すれば確実に話題になるという「そろばん勘定」だけでは、40年もの時間を持ちこたえることはできないということだ。出版業界でも同訳書の刊行の実現を本気では信じていないひともいたのではなかっただろうか。この40年間に同訳書刊行にかかわったすべての関係者に敬意を表したい。と同時に、以下の続刊の順調な刊行を期待したい。

ひとつだけ私見を申し立てる。邦訳題名については、以前から案内されていた『生のものと火にかけたもの』のほうが適当だろう。ささいな違いとおもう向きもあるかもしれないが、ぼくはそうはおもわない。理由については、同訳書の案内書として同時に刊行された『レヴィ=ストロース『神話論理』の森へ』(みすず書房)所収の渡辺公三氏の文章を参照されたい。


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