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読書人とユリイカ

読書人とユリイカに寄稿した。

読書人は、7月23日発行号掲載「2010年上半期の収穫から」という読書アンケートである。「収穫」などというと偉そうで柄でもないのだけれど、せっかくの機会なので、つぎの3点を選んだ。

どれもとびきりおもしろく、かつ重要な本である。書店や図書館でぜひ手にとってくださるとうれしい。

ユリイカのほうは電子書籍特集のなかの一篇。といっても、ぼくの論考は明らかに異端である。Kindle/iPad的な電子書籍「祭り」を、かなりの距離をおいて眺めている。

この「祭り」を構成する言説は、過去のみごとなまでの反復である。そして過去の議論と同様、冊子の書物と電子書籍とを同一線上におくことを前提としているが、ぼくには両者が連続しているとはまったくおもえない。興味深いのは、そうであるにもかかわらず、なぜ多くのひとたちが連続していると見なすのか、あるいはそう見なしたがるのか、という点である。この話はいずれ書くつもりの単著につながってゆくはずです。


大学図書館とデジタル化

大学図書館問題研究会のオープンカレッジという催しに講師として参加してきた。大学図書館のライブラリアンや関係者の勉強会のようなものらしい。今回与えられたテーマは、学術情報の電子化と大学図書館、というようなことだった。

講師といってもレクチャーするわけではない。ワークショップ形式の座まわしみたいなことをし、あとで他の2名の講師とともにパネルディスカッションでしゃべる。こういう形式で実施するのは初めてのことなのだそうだ。

お二人の講師は旧知の間柄だったようだが、ぼくとは初対面だった。先方はぼくのことなど知らなかっただろう。講師どうしによるパネルの発言では、教えられるところもあり、また、ぼくから見れば俗流メディア論としかいいようのない話も含め、異なる点もいろいろあった。しかしそれは立場や考え方が違えば当然ありうることであり、少なくとも両者に議論する用意がありさえすればいいだけのことだ。

いずれにせよお二人に共通していたのは、デジタル化する現在の状況を、少なくともそれぞれの立場において本人なりに引き受ける覚悟をはっきり持っていたことである。

いっぽう図書館関係の参加者たちのほうは、どうか。全般にいえば、ちょっと歯がゆく感じられたといわざるをえない。

もちろん大学図書館の現場では現場なりにそれぞれ悩みがあり、考えがあるのだろうということはわかる。それに真摯に向きあおうとしてもいるだろう。だから休日にもかかわらず、こうして勉強会に参加しているのだろう。

けれども、ではデジタル化をじぶんの問題として引き受けてゆくような覚悟がどれほどあるのか、となると、残念ながらそれはあまりはっきりとは感得できなかった。ともすれば、誰かに「答え」を教えてもらえるのではないかという姿勢がかいま見えるような気がしなくもなかった。そして、そういうことは今回にかぎらず、あちこちでよく見かける光景でもある。

だとすれば、二人の講師の、現実をじぶんの立場において引き受けるという態度こそが、今回の催しから学ぶべきことだというべきだといわねばなるまい。図書館員のみなさんには、これからの図書館をつくってゆくのはじぶんたちなのだという気持ちをもって、ぜひしっかりがんばってほしいとおもう。


BEAT公開研究会「電子書籍時代の教材」

今日はiPadの日本発売日ですね。こんなシンポジウムに登壇することになりました。明日開催。

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BEAT Seminar 2010年度第1回 BEAT公開研究会
「電子書籍時代の教材:誰が作りどんな形になるのか」
2010年5月29日(土)開催
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Apple社のiPadやAmazon社のKindleなど、電子書籍の流通基盤になる個人用
デバイスが普及し始めています。アメリカでは多くの教科書が電子化され、教
材の流通に革命的な影響をもたらす可能性があります。
当面、教科書や参考書などの電子化が進むでしょう。しかし、長期的に考え
れば、電子環境への移行によってもっと大きな変化が起きる可能性があります。
このセミナーでは「誰が作り、学習者にどう届けるのか」という流通システ
ムの変革と「電子環境ならではのマルチメディアとの統合」というテーマをと
りあげ、電子書籍時代の教材の新しい形について議論を深めていきたいと考え
ています。みなさまのご参加をお待ちしております。

■日時
2010年5月29日(土) 14:00~17:00

■場所
東京大学 本郷キャンパス
情報学環・福武ホール(赤門横)福武ラーニングシアター(B2F)
アクセスマップ>>http://www.beatiii.jp/seminar/seminar-map42.pdf

■内容
1.講演1 14:05-14:50
「電子書籍の衝撃」
佐々木俊尚(ITジャーナリスト)

2.講演2 15:00-15:40
「電子書籍時代のマルチメディア教材」
宇治橋祐之(NHK青少年・教育番組部)

3. 指定討論 15:40-15:50
長谷川一(明治学院大学 准教授)

4.参加者によるグループディスカッション 15:50-16:20

5.パネルディスカッション 16:20-17:00
「電子書籍時代の新しい教材の形とは」
司  会:北村 智  (東京大学 特任助教)
パネラー:長谷川一(明治学院大学 准教授)
宇治橋祐之(NHK青少年・教育番組部)
山内 祐平 (東京大学 准教授)

※iPadとKindleの体験コーナーを開設いたします。

■定員
180名(お早めにお申し込みください)
申込ページ:http://www.beatiii.jp/seminar/index.html

■参加費
無料

■懇親会
セミナー終了後1F UTCafeにて
参加希望者(¥3,000)

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電子ブックの2010年

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

2010年が始まった。今年日本でもブレイクの見込まれるもののひとつが、電子ブックリーダーであり、それに連動するネットサービスである。すでに米国ではアマゾンのKindleはじめ電子ブックリーダーがけっこうなヒット商品となっている。年明け早々には、かねて噂されてきたアップルのタブレットも発表される見通しだといわれている。アップル・タブレットはもちろん電子ブックリーダー専用機などではないのだとしても、その機能を主要な柱に据えた製品である可能性はかなり高そうだ。すでに音楽で十二分に成功したように、iTunesと統合して電子ブックサービスを連動させてくることは容易に想像できる。

ただし電子ブックリーダーというデバイス自体の登場は今回が初めてというわけではない。もうこの10年ばかり手を替え品を替え登場しては消えていくのをくりかえしてきている。今年の動向が重要なのは、それがいよいよそれなりの規模の市場として日本でも本格的に立ちあがるかもしれないことである。

もっとも日本のばあいは米国とは事情が少々ちがう。わざわざ専用機などつかわなくても、ケータイでさまざまなテキスト(当然マンガなども含まれる)を読むことは、すでにごく当たり前の光景だ。ぼくでさえ、夏に買ったiPhoneの利用時間のうちかなりの割合をテキストを読むことに費やしている。そこに電子ブックリーダーが浸透してゆくとすれば、たんにテキストをネットで買って読むというだけではなく、何か別のライフスタイルに巻き込んでゆくようなアイディアが不可欠だろう。それはおそらくは、なんらかの意味でユーザー生成コンテンツ的なサービスなのだろうが、具体的にはなんともいいようがない。

重要なことは、こうした現象についてどんなスタンスでものを考えるか、である。ぼくの立場・役割ははっきりしている。

新しい商品やサービスや市場についての「予言」や、どうすれば一儲けできるかという話について、それらしい言葉──「つながり」「発信」「便利」「新しい」「アナログからデジタルへ」など──をまぶして語るような類の話は、ビジネスマンやシンクタンクやITジャーナリストにまかせておけばよい。ぼくが考えなければならない事柄は、おそらく、そうしたひとたちの大半が「役に立たない」として鼻も引っかけないような水準にある。

書物のデジタル化と総称できるようなこれら現象は確実に、「人間」と「知」のあり方の変容と相互に関係しているだろう。冷静にみれば電子ブックは紙の書物とはまったく異質なものなのだが、それを書物の変容という文脈で連続的にとらえてしまう視点そのものに鍵がある。したがって、「書物」の変容は、たんに物質的・技術的な変化ではなく、近代という時代の脊梁をなしてきた「人間」という虚構をめぐる知の布置の変容に根ざしている。

こうした事柄について考察することは、たしかに目先の利益にはまったくつながるまい。しかしこうした人文学的な姿勢は、事象を真に把握し理解しようとするうえで欠かせないことである。ほんの少し長い目でみるだけで、それはけっして無益ではないと理解できるはずだ。

メディアとは、たんに媒体やその装置や技術や産業のことをいうのではない。それは「もののわかり方」を指定するものであり、それらの配置なのだ。そのようなところから把握してゆこうとするがゆえに、あえて「メディア論」を名乗る意義があるのだと、ぼくは考えている。(100102若干修正追記)


Amazon Kindle

かねて噂のAmazon謹製電子書籍リーダーKindleが、とうとう発売された。399ドル(5万円弱ほど)というから、アップルのiPhoneとちょうど同じ価格だ。といっても、当面は米国のみで、日本では発売しないらしい。そのせいか別の理由によるかは知らないが、日本のマスメディアは概して無関心だ。その無関心ぶりは、ネットのIT系ニュースサイトやブロガーたちの反応の素早さや厚みと比べたとき、奇妙に感じられるほどである。

鳴り物入りで発売されたKindleだが、細かな機能はともかく、電子ブックリーダーとしての枠組みに目新しさはない。ケータイ小説やマンガ配信に読者も業界も群がる日本の状況からすれば、このKindleはそのネーミングに込められた烈しい感情──この言葉は、あおる、燃え立たせる、輝かす、産むなどといった意味を含む動詞である──に相反して、牧歌的な印象をいだかせるものである。もしこの商品が商業的に成功するとしたら、この「鈍さ」が鍵になるのではないか。

Kindleが端的に示しているのは、アマゾンの「本」にたいする想像力である。それは本を冊子体という物質的な水準において捉え、それをデバイスと見なす発想だ。紙の冊子体という器に、テクストが内容として盛りつけられているという、古典的なメディアとコンテンツのイメージであり、いたって保守的で、わかりやすい。だから、冊子体の可搬性と形状をそのまま物質として実現し、ページや版面をディスプレイに置き換え、内容にあたる作品をそこに表示できるようにし、タイトルを探す書店や図書館にあたる空間をネットで提供する。こうした発想は、過去に存在した他の電子書籍リーダーと変わるところはない。そもそも専用機であること自体が、冊子体の本にわたしたちが見出してきた世界性──その基盤は綴じられた本という物質性にある──にたいして、よくいえば敬意を払っており、別言すれば、本を伝統的な範疇にとどめようとしているといわねばなるまい。

アマゾンのKindleの特徴をよりはっきりと把握したいのであれば、グーグルのすすめるブック検索と比較してみればよい。こちらは、大学や図書館、出版社と連合して、地球上の冊子体の本を片っ端からスキャンしていこうとするプロジェクトだ。米国の出版業界は、これを救世主とみるか敵とみるか日和見を決め込むかにわかれて、紛糾している。

ブック検索に限らず、グーグルの活動を支えるのは、独特の使命感である。それは、あらゆる知を断片化していわばカード化し、フラットな情報空間を構築していくという世界観にもとづいている。本日(2007年11月25日)付け朝日新聞の求人広告欄の企画記事(14面)に、グーグル日本法人社長・村上憲郎氏のインタビューが掲載されていた。村上氏は、グーグルはメディアではなく価値中立的な立場だと強調する。氏の見解というだけではなく、米国本家が掲げるとおりの主張である。だが、この発言をもし額面どおり受けとるのだとしたら、それは理解を誤る道だといわねばなるまい。すべての知は情報であり、情報はすべて検索資源だとする世界観自体、きわめて独特かつ立派なひとつの価値観であり、思想だからだ。この思想は、一方では誰しもがグーグルをつかわざるをえず、グーグルは広告媒体として栄える、という筋書きへとつながり、もう一方では、とりわけ世界性と「人間(ヒューマン)」を重ねあわせるフィクションの上に成立してきた人文系の知は、その解体にいよいよ決定的な一撃がくわえられることを意味しているだろう。良し悪しは別として。

アマゾンとグーグルは昨今、「グーグル・アマゾン的世界」などとして、つねに十把一絡げに扱われる。だが、本とくに書籍にたいする姿勢を見ていくならば、両者のビジョンやテイストの違いは端的に浮き彫りになる。物販を生業とするアマゾンにとって、本を扱うときその物質的側面を無視することができない。これにたいして、検索サービスを武器に広告媒体として主導権を握るグーグルにとっては、本は検索資源の一大宝庫──ただしいくつもあるうちのひとつの宝庫にすぎない。両者に共通するのは、いまや書籍こそがデジタル化を拒むアナログ世界の最後の牙城であり、最大の草刈り場であると見なす点にある。

以下を参照。

アマゾンのKindleはこちら

拙稿「グーグル切断──デジタル・メディア社会における「活字」と「綴じること」」(『東京大学情報学環紀要 情報学研究』70号、2006年12月所収)はこちら(PDFファイル)。


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