インターネット・ラジオ

原稿を書いている。なかなかうまく書きすすめない。うんうん唸りながらずっとiTunesで流しているのが、インターネット・ラジオだ。いちばんよく聴くのはMax Broadway。SelectとVarietyの2波(電波を出しているのじゃないわけだが)ある。どちらもおしゃべりはなし。ブロードウェイ・ミュージカルの曲ばかりを次から次へとかけつづける。

このインターネット・ラジオ局、局とはいうものの、運営しているのはアメリカ合州国テキサス州在住のひとりの市民である。プロフィールによれば、「昼間は高校で数学を教え、夜はインターネット・ラジオのブロードキャスターをしている」という。高校の先生をしているのだが、ミュージカルが好きで好きでたまらない。それが病膏肓に入りて放送局を開局し、DJ兼ディレクター兼プロデューサー兼経営者を実践してしまっている、というわけだ(ぼくがミュージカル批評を始めたパターンとちょっと似ているような気がしないでもない)。かける曲はじぶんのCDのコレクション(これがナカナカ、目を見張らされる)から選んでいるらしい。ときどき曲がブチッと唐突に切れて次曲が途中から始まったりするのがご愛敬だが、とにかくミュージカルにただならぬ愛情を抱いていることは聴いていてよーくわかる。

開局から4年、初めのうちは一日数時間の「放送」しかなかった同局は、いまでは終夜休まず毎日「放送」し、Live365(インターネット・ラジオの制作や放送を支援している)のなかでも人気のある局のひとつになった。

ところが先日、この12月末で閉局するという声明が出た。理由は不明だが、個人で、しかもほかに本業をもちながら(なにせ高校の先生なのだ)、なお全日編成で2波(電波を出しているのじゃないわけだが)も「放送」しつづける負担は、たとえそれが放送内容だけにかかわる負担だとしても、けっして小さくはなかっただろう。ただ声明の文面からは、疲労や消耗というような暗い感じは、あまり受けない。それよりも、じぶんの試みが予想以上に大きな支持をうけたことの歓びのほうがずっと上まわっているという印象だ。「ラジオ局」といってもいろんな意味で既存の放送局とは違うのだから、杓子定規に考える必要なんかない。余裕がなくなれば休めばいいし、気が向けばまた再開すればよいだけのことだ。

とはいえ、ひとりのリスナーとしては残念な気持ちは拭えない。だが放送者当人(文字どおり、ひとりの人間だ)がそんな調子なのだとすれば、それを尊重すべきだろう。とりあえず閉局までの三週間、これまでどおり愛聴し(特番も組むらしい)、いっそう愉しませてもらおう。それがリスナーとしてもっとも相応しい態度というものだ。感謝を込めて。
(2006年12月8日、若干加筆。)

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