最初に言ってくれ

作家の志水辰夫さんのオンライン日記を愛読している(あ、小説もです)。先日、振込ひとつに3時間かかったことが記されていた。身元確認がやたらに要求されたり、そのための書類やら手続きやらが煩瑣になっているためだ。もちろんそれには悪用防止という大義名分があり、じっさい詐欺事件やスキミングなどの犯罪も多いらしい。だが同時に、こうした「利用者のみなさまのため」の裏側には、官僚主義的精神がこっそりと、かつ、分かちがたく貼りついているものであり、利用者に、詐欺の類とはまた別の種類の厄災をもたらすのだ。そうした厄災は、当然ぼくの身にもふりかかる。

近くの郵便局へ行った。学資保険の一時金をうけとるためだ。窓口で要件を告げ、証書と通知葉書と運転免許証をさしだした。ところが応対をしてくれた女性職員は、免許証ではダメである、親子の関係を証明する必要があるので健康保険証をもってくるように、と言う。取りに戻る時間はなかったので、仕方なく別日を期すことにした。

数日後、再び郵便局を訪れた。仕事の途中だったので、先日とは別の局である。窓口で要件を告げ、証書と案内通知と免許証と、そして健康保険証をさしだした。ところが係員は予想もしない返答をよこしてきた。またしてもダメなのだという。

説明を聞いてもよくわからない。何度も訊ねると、奧から色刷りのチラシを出してきた。保険をかけていた本人とかけられていた子どもの性別を確認する必要があるのだそうで、平成16年7月15日以前に発行されたパスポートその他の書類を持参しなければならないらしい。運転免許証は性別の記載がないのでダメで、健康保険証もぼくのものは指定期日より後に発行されたものなのでダメだという。

そもそもこの期に及んでなぜまた性別の確認の必要があるのかぼくには理解できないが、それはまあよい。そういうややこしい書類が必要で、チラシまで用意しているのなら、なぜそれを最初から言わないのか。通知と一緒にチラシを送付して注意を促せばいいだけの話のようにおもうのだが。それに、最初の郵便局で応対した係員は、そんな話ひと言もいわなかった。たぶん係員当人には悪気はまるでないのだろうが、規則を小出しにして部外者に何度も足を運び直させることは、さまざまな役所や役所的なる組織の隅々でお馴染みの光景である。官僚主義の世界におけるもっとも基本的な態度といえるだろう。

さて、近いうちにまたしても郵便局へ行かねばなるまい。ぼくの頭のなかでは早くも事態を先走り、『キャッチ22』的妄想がふくれあがりつつある。前回求められた書類をたずさえて、郵便局へ行く。ところが、またしても別の不備を指摘されて出直しを余儀なくされる。そうして何度赴いてもそのたびに新たな不備が指摘され、一時金は永遠に先延ばしされてしまうのだ──。ああ。

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