映画『ハゲタカ』

映画『ハゲタカ』を、ジジババだらけの映画館で観た。

現代日本にいたく不満、というポーズをとってみせる。日本経済のこのていたらくは、既得権益層の保身のせいであり、それを背後からささえているのが中国にたいする恐怖であり、それと表裏一体の差別意識であって、じつはいちばん悪かったのはアメリカでした、というお話である。昨秋来の世界同時不況にかんする日経的なビジネス言説の平均的な理解枠組そのまんま、だ。

そして、けっきょくのところ、日本の「美点」を再確認するところへ回帰する。このことからもわかるように、この作品は同種の言説と同様に、わたしたち自身にたいする「鋭い批判」のようなポーズをとりながら、そのじつは現状維持へ回収してゆく安全弁として機能する。

物語にかんしては、ぼくはテレビドラマは未見なので、よくわからない箇所も少なからずある。だが演出のテンポがわるくないので、それなりに見せる。しかし中盤以降の展開は、さすがにご都合主義もきわまれり、といった趣である。

ブライドの向こうの傾斜窓に烈しく雨粒がたたきつけられ、滝のように流れてゆくシークエンスは、ダグラス・サーク監督そのものであって、この作品が基本的にメロドラマであることを示している。シークエンスのつなぎ方にも、サークっぽさを見てとることができるのだが、メロドラマだとおもえば、すべてを説明しようとしてくれる過剰な親切さにも納得がゆく。

脇役陣はわるくない。遠藤憲一は、この手の役をやると、じつによい。アカマ自動車の真っ赤なGTが、どう見てもあまり冴えないデザインなのが残念だった。

60代以上とおもわれるジジババが主たる観客である。かれらは、どういうわけか映画が始まってもケータイの電源を切らない。案の定、上映中にブーブーと着信を知らせるバイブ音がする。それも幾度となく。エンドタイトルが始まると、メールチェックで、明るい画面をちらつかせる。やれやれ。授業中と上映中はケータイの電源を切ってくれって、予告編でヤンクミもいってるだろう。たのむから。

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