映画『インビクタス/負けざる者たち』

2月は税金の季節。確定申告の終わった足で映画館へ向かった。2月半ばというのに、なんと年が明けて初めての映画館だ。観たのはクリント・イーストウッド監督の新作『インビクタス』。けっこうお客さんあり。

国民統合のためにスポーツ(このばあいはラグビー)とメディア(おもに新聞とテレビ中継)が最大限に活用される過程が描かれる。メディアイベント論の教科書のような作品である。

一般的な映画通的見方としては、イーストウッドの一連の作品と関連づけ、その政治的主張を深読みするかもしれない。対立、戦争の告発から、自己犠牲、そして異なる文化どうしの和解、そのために寛容な心をもつこと、などというように。スポーツはそのためのメディアである。スポーツは戦争と似ているが、違いもある。どれだけたたかっても、スポーツではふつう死者は出ない。SAAのジャンボ機のエピソードは、むろん9.11を連想させるわけだが、ここでも破滅をちらつかせつつ、そこへは足を踏み入れない分別をみせる。

演出はいつものように淡々とし、地に足ついて手堅い。しかし、一度どん底に落ちたチームに新しいコーチがやってきたあと、かれらがチームを立て直す過程がまったく描かれない。そのためモーガン・フリーマン演じるマンデラ大統領の万能感がやたらに際だってしまう。実際のマンデラは立派なひとなのだろうが、作品としては全体に英雄譚の色彩が濃く、やや白け気味ではある。英雄を演じるフリーマン自身は、もう気合い入りまくり。もともとフリーマンが持ち込んだ企画らしいから、むべなるかな。マット・デイモンも好演。

このお話は15年前に南アフリカでおこなわれたラグビーのワールドカップ大会での実話がベースになっているらしい。いうまでもなく今年はサッカーのワールドカップ・イヤー。同じ南アでひらかれる。当然それを意識した企画であろう。

それにつけても、この邦題はなんとかならないものか。

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