雨具は濡らさない

登山用の雨具を買いに行った。

前のは裏地のビニールみたいな素材がついに硬化し、ボロボロと鱗のようにはがれてダメになった。20年前の安物だから仕方がない。こんどは奮発してゴアテックスの雨具にした。

会計のさい、店員さんが、「袋に入れますか?」と訊く。とりあえず「お願いします」と答えたが、なんだか妙な気持ちがした。袋に入れなければ、どうするというのだろう?

店の出口まで来ると、数人が固まって所在なさげに立っていた。外を見た。店員さんの言葉の真意を理解した。土砂降りだったのだ。頭上で雷鳴まで轟いている。

あとで知ったが、記録的豪雨だったという。新宿で74mm、練馬や相模原では90mm以上。

雨宿りをするネクタイ姿のひとたちを尻目に、傘をさして駅まで歩いた。雨はシャワーのように猛烈な勢いで降り注ぎ、煙ってしまって視界が効かない。膝から下は、たちまちびしょ濡れだ。

胸のところにビニールの袋を抱きかかえている。買ったばかりの雨具を濡らさないよう。

あれ、でも、これってあべこべだよな。

じぶんがとても間抜けなことをしているような気持ちがした。

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