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運動会

びっこと階段

右脚を痛めた。だいたい2-3カ月に一度くらいの頻度で、どこかしら調子をおかしくしているような気がする。

今回は、中学の運動会だった。

借り物競走で走ってきた男の子が札を引く。そこには「メガネをかけている人」と記してある。かれが顔をあげると、視線のすぐ先に、ぼんやり腰かけているぼくの姿があった(らしい)。かれが走り寄ってきて、お願いします! と大きな声でいう。断るわけにもいかないので、左手をつかまれるままにゴールに向かって走っていった。

途中まで頭の中はほとんど真っ白だったが、ゴール間近になって、ふと、こんな急に走ったりして大丈夫かという考えが頭をよぎった。その瞬間、右腿の裏側にピリッと痛みが走った。年寄りの冷や水である。

しばらくは右脚を軽く引くくらいですんでいたが、運動会を観戦しているうちに徐々に痺れてきた。

午前中がすんで帰ろうとした。だが、歩けない。右脚に体重をかけられないのだ。まわりから向けられる好奇と同情と哀れみの入り混じった視線を感じながら、よちよちと壁づたいに休み休み歩き、ずいぶん時間をかけて、なんとか帰宅した。

軽い肉離れだったのかもしれない。病院はすぐ近所にあるが、そこまでまた歩くのかと考えただけで目まいがする。その日はバンテリンの湿布を貼っておとなしくしていた。

そうしたら、翌日には、びっこを引きながらでも、とりあえずは自力で動けるまでには恢復した。これなら病院はもういいや。あとはとにかく湿布だのみで数日をすごした。

昨日は授業のため白金まで、びっこを引き引き出かけていった。右脚への体重のかかり方に気をつけていれば、ゆっくりとではあるが、歩くことはできる。さすがに駅から大学までが、はるかに遠くに感じられたが、ともかく、ぶじに仕事はできた。ただ帰宅するころには右脚は棒のようになって、なかば痺れていた。

いつものように品川から横須賀線に乗った。ところが、事故のため総武線への乗り入れを中止しており、東京駅どまりになるという。到着したのは、地下1番線。総武線の車両は、はるか地下4番線に停まっている。そこまで移動するには、階段を上り下りしなければならない。

追い打ちをかけるのが、エスカレーターである。東京駅では電力抑制のため、一部のエスカレーターが停止している。立ち入りもできない。昇降につかえるのは、不動のエスカレーターを除外した残りの階段部の幅員ぶんだけだ。列車を降ろされた乗客たちは、その狭い階段を譲りあって昇らなければならない。

利便性の向上を謳ったエスカレーター増設が、混雑に拍車をかける結果を招いているのは皮肉というほかない。

乗客たちは、とりたてて文句のあるようなそぶりも見せず、黙々と階段を昇り、地下4番線をめざす。こういうとき、つくづく首都圏のひとはエライなあとおもう。

ぼくも階段の端の手すりにつかまりながら、よちよちと階段を昇る。

階段の途中でふと顔をあげると、目の前に30歳前後くらいの女性がいた。手にした二本の松葉杖を突きながら、やはりそれが当然のことであるかのようにして、黙々と階段を昇っていた。


トランスカルチュラル花笠音頭

運動会ネタもうひとつ。

小学校の運動会では学年ごとに競技と演技がある。《くんくん》の学年の演技は花笠音頭だった。毎年おなじみのレパートリーなのだ。そして毎年これを見るたびに疑問におもう。そもそも千葉の小学生がなぜ運動会で山形の民謡を踊らねばならないのか。

考えられるひとつの説明は、千葉には地域を象徴する民謡も踊りもないから、というものだ。たしかに、にわかにそう問われても、何も思い浮かばない。しいていえば、「菜の花体操」という名の、体操というか踊りというか、そんなようなものがあるくらいだろう。菜の花体操は県内の小学校でも教えたりしているらしい。だが、あれが千葉県という地域を象徴しているのかといわれれば、誰であれ首肯しにくいはずだ。だいいち市川のわが小学校ではこれを教えていない(見識だとおもう)。ということは、やはり千葉には千葉らしさを象徴する民謡や踊りは見あたらないのである。

なにもないということは、なんでもありということでもある。だから目についたものをいくつか適当に選んで恣意的に結びつけ、「文化」や「伝統」っぽい装いをでっち上げるのかもしれない。だとすれば、今日の小学校運動会もまた立派にポストモダン社会の一翼を担っているというべきだろう。

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騎馬戦

今年もまた運動会の季節が来た。《なな》は小学校最後の運動会。開会式では吹奏楽でチューバを吹き、競技中は得点係として校舎4階の得点掲示板のところに張りついていて、そのあいまにじぶんの競技にも出場しなければならない。

騎馬戦で《なな》は白組大将騎の馬の右側となった。運動神経に特別秀でているとはいいにくいので、おそらくはガタイのよさだけで抜擢されたのではあるまいか。大将は応援団長がつとめる習わしだ。あいにくこちらはからだが小さく、帽子の奪いあいには不利である。そこで騎馬のガタイのよさを活かして、帽子を奪いにいくよりも、相手に騎馬ごと体当たりして崩す作戦でいこう、と事前に作戦を立案していた。

ところが当日の展開は予想外だった。最初の遭遇戦で白組は惨敗し、大将騎のほか1騎しか残らなかった。味方の騎馬が多く残って一騎打ちでしっかり勝ってくれれば、大将騎がわざわざお出ましせずとも試合に決着がつくことさえあるくらいなのだが、味方が1騎だけではさすがにそれは望めない。しかもそれは5年生の騎馬である。はたして、たちまちに大将騎の出番が来てしまった。

《なな》たちの大将騎は、事前に計画していた作戦どおりにたたかって3戦勝ち抜いたものの、4戦目であえなく帽子をとられて敗戦。あとで《なな》は、「あの騎馬にさえ勝っていれば残りには勝てたのに」と悔しそうにいっていた。


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