紀伊國屋書店の「書評空間」というサイトに寄稿している。ブログ形式で運営する実験的な試みだ。サイト自体はMovable Typeで構築されている。寄稿者は基本的に投稿するだけなのだが、もう少しいじってみたいと考えるようになった。そこで、じぶんでMovable Typeをつかってみることにした。時ならぬブログの大流行もだいぶ飽和してきた感もあるので、タイミングとしても悪くない。
日記の類は子どものころから苦手である。ブログで日記をつけたいという気持ちは、ぼくはほとんど持ちあわせていない。かといって、プログラミングの技術的な知識の専門家でもない。もっとも関心をもったのは、Movable Typeという、その名前である。
今日では、Movable Typeの名は代表的なブログ・システムとして知られているだろう。しかしこの名はもともと可動式活字、つまり一文字ずつバラして組み換え再利用可能な活字を意味していた。最近の大学生は活版印刷についてまったく知識がないケースがほとんどだが(これはやむをえないことである)、多少知っている方なら、細長い直方体の先に凸型に文字が鋳造された金属活字の姿が思い浮かぶはずだ。ルイス・マンフォードによれば、この可動式活字(ムーヴァブル・タイプ)は、互換性と標準化という二面において近代の原型となった。
もとよりデジタル・メディアは全体的に既存のメディアの比喩に満ちているが、ぼくとしては、なぜこのシステムにMovable Typeの名が与えられることになったのか、その理由と経緯を知りたいところである。可動式活字とブログでは、技術史的にはふつうに考える限り連続性は見出しにくい。だが、後者が前者から名前を引き継いだというその一点が媒介となって意外な想像力が立ち現れてくる、という可能性も、ないわけではないだろう。
(つづく)