パリ散歩旅(2)──ノートルダムのスタンカーメン

到着したパリは復活祭のまっただ中だった。もうヨーロッパじゅうからやって来たお上りさんだらけ。われわれもお上りさん一行として、そのなかに混じり、うろうろする。

ノートルダム大聖堂へやってくる。なんというか、浅草寺の雷門前みたいな雰囲気である。あんなにじめじめしていないが。聖なる場所が俗なる場所に囲まれているという図式は、なかなか興味深い。観光なんて世俗のきわみだしなあ。

その大聖堂の塔に昇ることができる。ただし順番待ちの列は半端ではない長さだ。下手なディズニーのアトラクションよりも待たねばならない。ミュージアムパスという美術館自由通行手形をもっていても、ならばなければならないという。

塔のほうはいいが、大聖堂の内部には入れてくれないらしい。復活祭の儀式の準備でもあるのだろうか。それでもむりやり押し入ろうとしている観光客のみなさんと係員が押し問答している。

大聖堂前の広場は、行き場のなくなった観光客で埋め尽くされ、むちゃくちゃなことになっている。映画『イースター・パレード』(名作である)のラストシーンそのままである。でも、誰ひとりとして殺気だつひとがおらず、ただぼんやりとたたずんで、大聖堂の上に白い雲が流れてゆくのをながめている。大学生くらいの女の子たちの集団が突如賛美歌をうたいはじめた。みんな退屈しているので、すぐに観光客の輪ができる。一曲終わると拍手、つぎの曲、というくりかえし。7-8曲うたったら、ガイドブック片手にうれしそうにその場を去っていった。

その横に、ツタンカーメンがいた。かぶり物をかぶり、全身金色の衣装に身をまとい、石杭の上にたって、身じろぎもしない。一言も発しない。足許におかれた小箱に小銭が投げ入れられたときだけ、深々とお辞儀をするのである。

子どもたちはこのパフォーマンスにキャッキャとよろこんだ。《くんくん》は「スタンカーメン!」と、歌舞伎の観客みたいに声をかけている。「ツ」ではなく「ス」といってしまうのは、その言葉を知識として知っているのではなく、耳で聞いて真似しているからだ。たしかに「スタンカーメン」のほうがこの場にふさわしいかも。

スタンカーメンは、後日シャンゼリゼでも遭遇した。そのときはベンチに腰かけていた。

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