パリ散歩旅(4)──トイレを探して

そのうち《くんくん》がトイレに行きたくなった。

なにしろ春のパリは寒かった。一日中外を歩いている。無理もない。しかもこの日の《くんくん》は不運だった。エッフェル塔でも一度トイレに行きたくなったもののまにあわなかったのだ。

エレベーター搭乗のための長い行列待ちのあいだ、寒風に吹きさらされて、芯から凍えてしまった。最上階まで到達したときには我慢できなくなっていたのだが、もはやどうにもならない。そこには(当然)トイレはなく、そればかりか、下りのエレベーターを待つ人たちの列が、とぐろを巻いた蛇のように、展望室内をのたうっていたからである。順番が来て地上にたどり着き、急いでトイレを探して入ったものの、ちょっとばかり遅かった。それで一度ホテルに帰って着替えていた。なのに、また、なのである。

パリで公衆トイレを見つけるのは至難の業らしい。東京だと、地下鉄の駅や商業施設などに、たいていは誰でもつかえるトイレが設置されている。それがない。ミュージアムでさえトイレはあっても小さいし、清掃などでつかえないことも稀ではなかった。街中でトイレを示す標識自体を見かけることも、まずない。たまに広い歩道の一角に公衆トイレと記された楕円形のコンテナ様のものがある。しかし、復活祭だからなのかそれが常態なのかは知らないが、どれも判を押したように「使用中」のところにオレンジ色のランプが点っている。

尿意をごまかすために「たてのり」みたいにジャンプジャンプしはじめた《くんくん》をつれて、トイレを探す。小鳥市場のはずれの小さな丸い建物にひとが入っていたので、もしやトイレかとおもってしばらくその前で待っていたが、いつまでたっても誰も出てこない。これでは埒が明かない。しばらくあたりを探しまわり、メトロの乗り場にトイレの表示を見つけたのものの、ぬか喜び、無情にも「閉鎖」の貼り紙がしてあった。

そうこうするうち、《くんくん》の状況はもはや予断を許さぬ状況に陥った。やむをえまい。こうなったらホテルに帰るのがいちばんだ。

滞在中毎日そうしていたように、コレージュやパリ大学のむやみに立派な建物の脇をとおりすぎつつ、サンジャック通りの坂道を登る。《あ》と《みの》に付き添いにして、《くんくん》をホテルに先行させる。3人が横断歩道をわたったところで信号が変わり、ぼくと《なな》だけが取り残された。《あ》は、ぼくには想像のつかないほどの方向音痴である。あらぬ方角に曲がろうとしている。見ているこちらも気が気ではない。そのうち3人は、曲がるべき角を曲がり、小走りにホテルのほうへ向かっていった。

ぼくと《なな》が遅れてホテルに着くと、受付裏のトイレを貸してもらっているところだった。残念ながら《くんくん》は、またもほんのわずかに間にあわなかった。仕方がないので、部屋に戻り着替え。濡れた服はさっそく《あ》が洗濯した。

干し終わるころ、気がついた。パリにトイレが少ないのは、カフェがたくさんあるからなんだな。そして、晩ごはんをたべるところを探していたことを思い出した。

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