セカンドシート換装にいたるまでには、あれこれ悩んだ。
ディフェンダー110 300Tdiの標準セカンドシートは、現代の一般的な乗用車と比べれば、まことに貧弱だ。大人なら背中の下半分までの高さしかなく、ビニール製でいたって簡素。座り心地はマイクロバスの座席を思い浮かべてもらえばいい。
そしてこのシートが、パイプフレームで簡単な台座に取り付けられている(なお2007年以降のPumaエンジン搭載のTdciはヘッドレスト付きの立派なセカンドシートに仕様変更されている)。
ジープの英国的解釈とその展開という出自を考えれば、これはこれでディフェンダーらしさのひとつでもある。その見方からすれば、換装するくらいならこの車に乗らなければいいと言われてしまうかもしれない。それはそれでひとつの立場ではある。
いっぽう、このプアなシートに長時間乗らなければならない同乗者にしてみれば、現実問題として、ちょっと厳しいというのが正直なところだろう。シートがほとんど身体をホールドしてくれない。もろに左右に振られるし、下からの突き上げもある。しばしば車酔いしてしまう。
日本のディフェンダー・オーナーのなかで、セカンドシート換装を考えたことのあるひとは、少なくないのではなかろうか。ぼくもそのひとりだった。
調べてみると、他車種のセカンドシートを流用してじぶんで加工してとりつけたという例がいくつか見つかった。なかには、自力で溶接までして換装してしまったという事例もあった。すごいひとたちである。
記事を読んでいるうちに、ぼくもついその気になり、ホームセンターで売っている家庭用溶接機などという装置をながめたりしたのだった。だが、落ち着いてよく考えてみれば、それは現実離れした妄想である。そんなものを扱う経験も技量もまるっきり持ちあわせていないのだから。
手先だって、ぜんぜん器用ではない。この手の職人仕事は、なんといってもきちんと手が動くことが大切であり、動きが身体に刻みこまれていなければならない。機械が好きで、機械について論じたり考察したりするのを仕事の一部にしてはいるものの、それは実際に機械を扱うこととはまったく別次元の話である。
鉄工所に部材や溶接箇所だけ発注して、設計・加工・設置だけならなんとかなるのではないかとも考えた。調べてみると、ワンオフで注文をうけてくれる会社がいくつかあることもわかった。ここに頼んで、なんとかならないか。だが、これもぼくにはむずかしいのだった。
鉄工所はあくまで発注されたものを製作してくれるだけだ。発注するためには現車からきちんと採寸できなければならないが、もちろんそんな腕はない。ある程度の強度を確保したいとはおもうものの、それを計算する能力もない。しかも、製作してもらったとしても、それがそのままボルトオンで取り付くわけではない。あれやこれや組合せ、加工しながら、取り付けていかなければならない。
換装作業は、やはり専門家にお願いするほかなさそうだ。いくつかのショップに当たってみたが、断られた。やったことがないという。無理もない。
あれこれ探しているうちに、1件だけ、ショップによるセカンドシート換装事例が見つかった。流用したシートがもともと付いていた車種名は記されていなかったが、内容を読んでピンときた。トゥーランじゃあるまいか。問い合わせてみた。やはりトゥーランだった。経験があるので換装は可能だという答えだった。
ところが、別の悩みが発生した。思っていたよりもはるかに費用がかかることも判明してしまったのだ。それだけの費用をかけるべきなのかどうか、ちょっと考え込んでしまった。子どもたちもだいぶ大きくなり、家族で長期間出かけるようなことは、もうめったになくなってしまったからだった。使用頻度と費用とを秤にかけて悩む。だが誰かが答えを出してくれるわけではない。
悩みつつもショップに相談にうかがった。詳しくお話をうかがうと、その費用は換装の内容に見あうものだということがわかってきた。ボディに台座を設置して強度を確保し、ひじょうにうまく工夫してくださるという。
こうして、ディフェンダーひるね号をお預けすることになり、現在にいたっている。よく考えられた設計、たいへんしっかりした造り、ていねいな仕上がり。プロの仕事という感じである。
換装をお願いして、ほんとうによかった。そして、ありがとうございました。
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