長田と鉄人28号

神戸に行ったら、ぜひ見に行きたかった。長田にある鉄人28号である。

場所はJR新長田駅からすぐの公園だ。ぼくが行ったときは、朝だったせいもあるかもしれないが、地元の小学生たちのたまり場になっていた。

足許には、ご多分に漏れず、落書き。釘や石の尖ったところで塗装を削って描かれている。内容は、誰だれと誰だれがラブ、みたいな定番もあれば、アンパンマンの絵もある。この足、鉄人28号のなんだけど。

落書きの写真を撮っていたら、遊んでいた小学生に声をかけられた。おっちゃん、なに撮ってんの? 落書きと答えたら、ちょっと離れた場所で遊んでいた友だちを呼ぶ。おーい、ちょっと来い。このおっちゃん、さっきあんたの描いた落書きの写真を撮ってるで。するとその子は、いややー、止めて! と言って笑っていた。

長田のアーケード街の奧に、鉄人28号と三国志の展示をしている一画があった。

ここで鉄人28号モニュメントのメイキング映像を見た。阪神淡路大震災からの復興記念であると同時に、観光の呼び物となることをめざしてつくられたという。ハードウエア面での復興は一定程度完了したものの、いまひとつ活気が戻らない。ということで、神戸出身の横山光輝のマンガを軸にしたまちづくりをはかっているということらしい。ただ、ぼくが訪問したときのアーケード街は、週末というのに必ずしも人影が濃いとはいえない様子だった。鬼太郎で大成功した境港のようなわけには、なかなか行かないようである。

向かいには、震災ミュージアムというコーナーがあった。

パネル展示が主である。阪神淡路大震災から、もう20年たつ。

アーケードからはずれると、古い「市場」があった。

なかの通路はこんな感じ。両側にシャッターがならんでいる。何軒かのお店は営業していた。東京だと立石の商店街で、これにちょっと似た造りを見たことがある。

このあたりの風景は、昭和がそのまま続いているように感じられた。長田のなかでも、このあたりは震災での被災をまぬがれたのだろう。そもそも長田は戦災にも遭っていないのだという。

再びアーケード街に戻る。八百屋さんがあり、魚屋さんがあった。

関東大震災のあと兵庫に転居してきた谷崎潤一郎は、関西の食の豊かさにおどろいたそうである。これらの店先のようすを目にしたとき、谷崎のその感慨を思いだした。