植物たちの経験する多元的な時間 —— 奥田實 写真集『野草譜』刊行

写真家の奥田實さんは、年長の友人のひとりだ。三十数年前、ぼくがまだうんと若かったころに旅先で出会った。奥田さんがちょうど北海道の東川に拠点を移された時期である。当時からすでに、大雪山を中心に、山の風景や植物の写真で知られていた。物静かで、じぶんのペースでこつこつと、しかし着実に歩んでゆく。そんなひとであるように、ぼくの目には映った。

ある時期から、奥田さんは、「ふつうの写真」ではなく、まるで博物画のような、写真でありながら絵でもあるような独特のスタイルをもった作品を発表しはじめた。撮影した木々や草花をデジタルで画像処理をしてコラージュした作品である。

コラージュといっても、ただの切り貼りではない。その植物の、花、芽、葉、地下茎などといった、その植物を構成するさまざまな部位を丹念に切りとり、さらに季節ごとに異なる姿をそれぞれ収め、それをひとつの画面に構成したものだ。したがって、個々の作品には、それぞれの植物が経験してきた多元的な時間がたたみ込まれている。

このような奥田さん的なスタイルは、かれこれ200年にもおよぼうとする写真の長い歴史において、あらたな表現形式として位置づけられてよい。それは、写真テクノロジーによって初めて獲得された世界の見え方(観察の仕方)なのだから。

これまでの作品は、観察の対象ごとに『生命樹』『野菜美』の2冊の写真集にまとめられている。このたび、第三弾として『野草譜』(平凡社)が刊行されるとのこと。今回、奥田さんのカメラと目がむけられるのは、かれの庭に繁茂する大雪山麓の野草たちだ。

よろしければ、ぜひごらんください。

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