大きな木があった。カシかシイか、ぼくにはちょっと区別できないが、その類の巨木である。
先日とおりかかったら、切り倒されていた。
倒された木はすでに処分されたらしく姿は見えなかった。切り株だけが残されていた。伐採してすぐだったらしい。切り口は鮮やかで、白いものがまかれていた。塩だったのだろう。
ぼくたちがその切り株の前で呆然としていると、とおりかかったおじさんが言った。「へびさんはどうなっちゃうんだろうね」
「へびさん」というのは、この地域の習わしである辻切りのことだ。毎年1月に、藁で蛇を編み、それを木にかける。へびさん=辻切りはずっと樹上にあり、一年間のうちにちょうど良いぐあいに朽ちてきて、翌年また更新される。下の写真が今年の辻切りだ(ただし別の場所で撮影したもの)。
その辻切りがかけられる木のひとつであった。だからこの木は、ちょっと特別な意味をもった木であった。
もちろん地権者の同意があってのことなのだろう。隣で宅地造成が始まっていた。その関係かもしれない。あるいは、それとは別の理由によるのかもしれない。
しかし、辻切りのかかる特別な木だとおもっていたから、こんなにあっけなく伐採される日がくるとは想像したことさえなかった。うかつであった。
在りし日の写真を載せておく。中央奧の大きな木が伐採された木だ。
昨日もその場所へ行ってみた。塩はすでに溶けてなくなっていた。大きな切り株だけが、やはりそこに残されたままだった。