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大平山

函館滞在中に福田総理の辞任会見があった。テレビのニュースを見ながら、ちょうど一年前も同じ部屋で同じような光景をテレビで見たのを思いだした。こうなるともはや年中行事である。やれやれ。

さて、今年も島牧へ行った。かつてのように一週間滞在するなど望むべくもない。わずか二泊だけ。その中日に、大平山へ登った。

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大平山は、狩場山とならんで島牧を代表する山だ。まわりが第四紀という地質時代に形成されたのにたいして、ここだけはそれより古い第三紀にできた。そのため動植物に固有種が多いことで知られている。それゆえ近年は盗掘被害がはなはだしい。島牧ユースのガンゼさんは盗掘防止を訴え、専門家と一緒にしばしばパトロール登山におこなっている。

稀少生物の棲むこの山は、同時に登るには険しい山でもある。ルートはほとんど直登。石灰岩質で滑りやすく、藪漕ぎもある。標準タイムは往復とも4時間ずつとされているが、条件によってはそれも厳しい。

ぼくは20年以上前に一度だけ登ったことがある。盛夏だったことも手伝って著しくバテて消耗し、三角点まで行けずに途中で敗退した。あまりにしんどかったそのときの記憶のため、以来いままで再登を試みようとおもわなかった。

今回もまた家族と合流した。小学一年の《くんくん》がついてくる。再挑戦として三角点をめざすのなど無謀だ。ガンゼさんは、第二ピーク(1109m)まで行ければ成功だよという。その手前の岩場がお花畑で、貴重な固有種が見られるからだ。そこまで達せられれば御の字、とにかく行けるところまで行ったらいさぎよく引きかえそうと決めて出発した。

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林野庁設置の入山カウンターをすぎ、入山届を記入。ポストでパンフレットをもらう。最初は、つる植物が鬱蒼と繁る湿った沢をひたすら登り詰めてゆく。汗が流れ落ち、虫がわんわん寄ってくる。帽子のない者はタオルで頬かむりスタイル。もう格好などかまっていられない。小一時間で樹林帯に入る。ブナの巨木にナイフで登山日や名前が刻まれて痛いたしい。40分ほどで草原に抜ける。ところどころロープがわたしてあるが、劣化のため頼りすぎるなという趣旨の但書きがついている。

まもなく第一ピーク(810m)に着く。登山口から2時間弱だから、家族づれにもかかわらず、じつに良いペースだ。雲が多いが、そのあいだからどっしりした狩場の山容が見えた。自然保護パトロール登山に来ていた後志支庁の二人連れと一緒になる。支庁のホームページにつかうかもしれませんといって、写真を撮ってくださった。

眼前に第二ピーク(1109m)がそびえている。ドウワァーンと銅鑼の鳴る効果音が聞こえてきそうな荘厳さである。曇りがちの日で、下からガスがあがってくる。第二ピークめざして歩きはじめる。少し下って鞍部で藪を漕いだのち、また登り。岩場にさしかかり、いくつかロープのわたしてある場所をよじ登る。沢では半泣きだった《くんくん》だが、ここまで来ると「たのしくなっちゃった」といって、歌をうたいながら岩場を登ってゆく。急な岩場をよっこらしょと登りきると、そこにオオヒラウスユキソウが咲いていた。やっとウスユキソウが見られた、来たかいがあった、もう満足です、と《あ》がせいせいしたような顔でいう。

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昔の記憶では第二ピークの上にルートが通じていた気がしたのだが、道は南側を巻いてゆく。あとで知ったのだが、崩落が激しいのと植生保護のために登山道を付け替えたらしい。子どもたちは、あそこが目標だといわれたピークに到達できず、落胆する。どこで折り返そうかと探すと、第二ピークの先にもうひとつ小さなピークが見えてきた。その向こうには第三ピーク、つまり三角点のある本峰(国土地理院の電子地図によれば1190.7m)が見える。そこでこれを仮にニセピークと名づけ、そこを目標に切り替える。

ルートは岩場をすぎ尾根にあがるが、かなり深い藪となる。身長120cmほどの《くんくん》は完全にクマザサに埋もれてしまい、頭を覆ったバンダナすら見えない。藪を漕ぐというより潜るといったほうが適切な表現だろう。ようやくニセピーク(おそらく標高1150m付近)に到達。登山口からちょうど4時間だ。ここでパンをたべ、引きかえすことにする。

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しかし大変なのは下りだった。岩場は歩きにくく、ロープをつかって降りるのに《くんくん》は登りの倍の時間がかかる。第一ピークが遠い。ほとんど登りと同じだけ時間がかかる。それでもこのあたりは急に切れ込んだ谷から風が吹きあげてくるので汗はほとんどかかない。ところが樹林帯に入ったとたんに湿度があがり、汗がどっと噴きでてくる。ブナの森には薄くガスがかかり、霞んでいる。地面はやわらかく、石灰岩質の石や木の根の上は濡れて滑りやすい。そのうえ、こちらも疲れてきているので、身体がおもうように動かなくなっている。

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沢に入ると状況はいっそう厳しくなる。長男の《みの》以外は、起き上がりこぼしみたいにコロコロ転ぶ。《くんくん》は一度、両手両足をひろげて滑り台を滑るようにして落ちてきて、最後に木の根につまづいて頭からこちらに突っ込んできた。

下山開始から3時間半、ほとんど小休止しかとらず、歩きづめに歩き、ようやく入山ポストのある地点まで戻ってきた。ゴールだ。その瞬間《くんくん》は、張り詰めていた緊張の糸が切れ、感きわまって、おいおいと大声をあげて泣きだした。よく歩いたぞ、ほんとうに。

《みの》と《なな》は、登山口の駐車場に停めてあったランクルめがけて走りだす。いまなら50m6秒台で走れそうな気がするなどと叫んでいる。こちらは足ががくがく。両膝は曲がるのを拒んでいる。滑る山道でつかんだ路傍の草の棘や毛が刺さっているのか、指が腫れてひとまわり太くなった感触だ。

登山靴と靴下を脱ぐ。踵に靴擦れができていた。《くんくん》のズボンはどろどろだから、それも脱がせてパンツ一丁だ。ランクルを走らせ、宮内(ぐうない)温泉に向かう。ゆっくり湯に浸かったあと、国道ぞいのセイコーマートで山の道で各自それぞれ頭に思い浮かべていた飲み物を買って、島牧ユースへ帰った。

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080911若干追記。


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