鉛筆削りが壊れた。手まわし式のプラスティック製、ごくごくありふれた鉛筆削りだ。そのハンドルが、真ん中からポッキリ折れたのだ。
直接の原因は、テーブルから棚に飛びうつろうとした愚猫てんてんが、この鉛筆削りのハンドルを足場にしようと試みたせいだ。足場にするには不安定だったため、鉛筆削りはあえなく床に落ち、てんてんは飛びうつりに失敗した。むろん、もっとも責任が重いのは、ハンドルを棚からはみ出すようにしてテキトーに置いた愚息たちである。
折れたハンドルを、《あ》が瞬間接着剤でくっつけた。元どおり復元したかに見えたが、なにしろ力のかかる箇所だから、いざ鉛筆をくわえさせてハンドルをまわすとたちまちまたポッキリ、元の木阿弥だ。
製造元の三菱鉛筆に電話して訊ねた。たかだか鉛筆削りだ。複雑な機構であるわけじゃなし、ハンドルだけ取り寄せて自力で交換すればいいやという心つもりだったのだが、この目論見は大甘だった。
聞けば、話は予想以上にややこしい。まず、ハンドルだけの交換は不可能だという。グラインダーと一体化しているからだ。交換作業は素人には無理なので、とにかく販売店に持ち込まなければならない。値段は現物を見て見積もってみないとわからないが、部品代だけで定価(約2000円)と同じくらいかかる。しかも、交換のための技術料も必要だ。──「失礼な言い方になりますが」と電話の向こうの男性社員は言い添えた。「お買い換えになったほうがよろしいかと」。
仕方がないので、銀座へ出たついでに、伊東屋と新しくできた東急ハンズをまわって、手頃な鉛筆削りを探してきた。値段は前のとほぼ同じだが、今度は筐体もハンドルも金属。これはこれで、使い勝手はよい。
壊れたほうの鉛筆削りは、こうなると、もう捨てるしかない──はずなのだが、どうも惜しい。ハンドルが折れた以外は、どこもなんともないからだ。折れた部分を金属板で挟んでビニールテープでぐるぐる巻にすれば、つかえるだろうか。いっそハンドルはあきらめて、ペンチで軸をつかんでまわすようにすればいいだろうか。そんな思案をしている。