肘折温泉

東京から山形新幹線つばさで4時間弱。終点の新庄駅から、さらに迎えの白いバンに揺られて40分。最上川を越え、真っ白の雪原をわたり、山を越えると、眼下に小さなカルデラ盆地がひろがっている。数十の家々が身を寄せあうその町が、肘折温泉だ。

肘折温泉は湯治場として東北ではよく知られているそうだ。観光客向けの宿だけでなく、小さな湯治宿も軒をつらねている。いま時分は、雪に埋もれて静かだ。積雪3メートル。少し融けたので減ったほうだという。宿に着くころには、また雪がちらつき始めていた。

荷物をおろすと、すぐに子どもたちは宿の外へ出かけていった。目の前にかかる橋の上から、下を流れる銅山川へ向けて、雪玉を投げ落とす。川面に落ちた雪玉が溶けていくさまをながめる。そのうち、雪玉をたがいにぶつけあい始めた。やがて雪が烈しくなった。宿へ帰りぎわ、長男は除雪してできた小さな雪山に両手を拡げて倒れ込んだ。くっきりとひとの形をした痕がついた。

泊まったのは「優心の宿、寒月」というところ。清潔で落ち着いており、気持ちよく過ごせる。お風呂は5階だ。お湯は熱め。ゆっくり浸るには、この季節はちょうどいい。食事は山菜など地のものが中心だ。うどの味噌汁とか、ふきのきんぴらとか、どれもおいしい。山菜ってこうやって料理するのだと教わった気がした。

雪は一晩降りつづき、翌朝止んだ。早くから除雪のブルドーザーの音が遠くから聞こえた。朝食が済むと子どもたちは、また雪合戦をするのだといって、さっそく橋の上へ駆けていった。昨夕長男がつけたひとの形の痕は、どこにあるのかすっかりわからなくなっていた。