急逝したマイケル・ジャクソンが準備していたコンサートのリハーサルを収めたドキュメンタリー。冒頭で、元来はマイケルの個人的な記録用として撮影された映像である旨の断りが入る。オーディションから本番直前まで、ほぼ全篇がリハーサルの現場の記録で構成されている。
ここ十数年は音楽よりも私生活がらみのほうでいろいろあったマイケルだが、この作品はあらためて、かれの偉大さを知らしめることになるだろう。
その偉大さは、たんに一芸に長じているというような性質のものではない。独自の世界を構築しえたがゆえの偉大さである。
そのことは、かれがたいへん幅広く多面的であることと関係している。本作品がスケッチしているのは、そうした一端だ。シンガー、ダンサー、パフォーマー、プロデューサーとして出色なのは言うにおよばない。リハーサル中にさまざまなアイディアを出し、スタッフに注文を出すのだが、それをめぐるやりとりはじつに興味深い。かれが苦労人であることもわかる。ときには子どもっぽい面も見せる。地球環境問題にたいする発言もおそらく本気なのであり、良くも悪くも素朴である。ことあるたびに “God bless you” という言葉を口にする。
ファンの待ち望んでいる曲を、かれらの期待を裏切らない形で演じるのだと何度もいう。本番さながらの密度をもったパフォーマンスで、リハを重ねる。誰もいないガランとした客席に向かって。その空虚な客席が観客で満たされる日がけっして来なかったことを知って観るだけに、なかなか胸に迫るものがある。
じつは最初、ぼくはこの作品を観る気はなかったのだが、床屋さんに勧められたので考えを変えたのだった。当該シネコン最大のスクリーンなのに、けっこう座席が埋まっていた。どう見ても全盛期のマイケル・ジャクソンを聴いていたとはおもえない(かなり)年配の観客が目につく。終了後、どういうわけか客席から拍手が少々。