鉄塔文庫の夜

せんだいスクール・オブ・デザイン(SSD)は東北大学の片平キャンパスにあった。駅から徒歩10分。近い。青葉山の建築学科の建物が震災で大破し建て替えとなった。その間の仮設校舎なのだという。

レクチャーでは、「セルフサービス」をとりあげた。日常生活の自明性が、いかに当たり前ではないかということ、そしてそれをいかに異化しうるのかということについて話をした。

引きつづき編集会議にも参加させてもらった。このコースは『S-meme』という建築系の批評の雑誌をつくることが目標なのである。

メンバーは、建築の院生から仙台在住のクリエーターや行政のひとまで多彩。大学の内外をつなぎ、地域に根ざしたデザイン教育のプログラムを開発し実践するというのが、SSDのコンセプトらしい。

会議の詳細についてはここでは立ち入らないが、なんだかんだといって、熱く濃い話しあいが遅くまで続いたのには感心した。とくに大学外からの参加者は、仕事を終えてから来ているというのに、予定を大きく超過して2200まで一所懸命話しをしていた。

主宰している五十嵐太郎さんの批評誌への情熱と、参加者ひとりひとりの関心やモチベーションとが、がっぷりと組みあえば、とてもユニークなものができるのではなかろうか。陰ながら応援しております。

そのあと、五十嵐さんと担当のOさん、それにたまたま別件で来訪していた研究者Aさんと一緒に「鉄塔文庫」という名前のお店に行った。

壱弐参(いろは)横町という、戦後闇市的雰囲気を残す飲み屋街にある。8人も入れば店内はいっぱい。板張りで天井が低く、ヨットのキャビンみたいである。両の壁は天井まで本棚で、文芸系を中心に本がならべられている。五十嵐さんいわく、書店居酒屋(?)なのだそうだ。かれの新著『被災地を歩きながら考えたこと』も置いてあった。

おだやかな雰囲気の若いご主人は、頭にタオルを巻きつけていた。以前は東京で編集者をしておられたという。元編集者なら、ぼくと同じだ。

震災をきっかけに、故郷の仙台に戻って、このお店をひらいた。復興と今度の東北を考えるうえで、さまざまな立場のひとたちが集い、出会い、談義できる場所になればと考えたのだという。「これから仙台市民がこのお店をどう考えるか見守っていきたいとおもっています」と冗談めかして話しておられた。その言葉のつかい方が印象に残った。

ぼくはお酒は強くないので、基本的にビールばかり。あとの三人はといえば、ビールは最初の1杯だけで、あとは日本酒。ぐいぐい杯を重ねてゆく。

あれこれ愉しく話をしていたら、2時になってしまった。いかにも北国らしい鋭い冷気のなかを、駅前のホテルまで歩いて帰った。