シンガポールでプリペイドSIMカードを手に入れた話を前々回に書いた。でもそれは、よくあるような出先からSNSに投稿したりするためではない。そういうことは、ぼくはしない主義だ。そうではなく、路線バスをつかうためである。
シンガポールのちいさな国内を縦横に無数の路線バスが走っている。路線バスを活用すればどこへだって行けるといっても過言ではないほどだ。しかしながら、土地勘のない旅行者にはハードルが高すぎる。時刻表もなければ、はっきりしたルート図もない。
バス停では、停車するバスの番号やバス停のリストはあるが、文字情報だけだから地理を知らなければ具体的な場所がイメージできない。ごく稀に、下の写真のような系統図が掲げられていることはある。しかしこれもまた、相当詳しくないかぎり、地理的なイメージとして脳内変換して理解するのはむずかしい。
そこで出番となるのが(一部の)旅行者によく知られたアプリケーション、My Transportだ。ぼくがつかっているのはiPhone/iPad版だが、アンドロイド版もある。いずれも無料。
メニュー画面はこんな感じ。凝ったデザインではないが、慣れれば使い勝手は悪くない。
もっともよくつかうのは、Bus Serviceである。現在地から最寄りのバス停を表示し、そこから利用できるバスの系統番号を表示して、そのルートを地図上で確認することができる。
Journey Plannnerをつかえば、現在地から目的地までのルートも教えてくれる。複数のバス路線を乗り継ぐという、よそ者には高難易度の移動も、これをつかえば可能となる。
Bus Arrival Timeは、乗りたいバスがバス停に到着するまでの待ち時間を教えてくれる。シンガポールの路線バスには時刻表というものが存在せず、時間帯ごとの標準的な運行間隔が示されているだけだから、こういうアプリの助けがあるとありがたい。
乗車したら、グーグルマップ上に現在地を表示してくれる。つまり、じぶんが降りたいバス停まであとどのくらいかがリアルタイムで把握できる。これも重宝する。というのも、シンガポールのバスには車内アナウンスがないからだ。当然つぎのバス停の案内もない。
ただし、まったく情報が示されないわけでもない。車内前方につぎのバス停名を表示する電光掲示板がついている(下の写真で前方窓の上部に映っているのがそれ)。けれど、座席位置によっては視認しにくく、見逃すこともあるうえ、文字情報だけなので空間的に把握するのはむずかしい。
このアプリがあれば、現在位置をリアルタイムで表示してくれるので、目的のバス停まであとどのくらいか一目瞭然である。
つぎが目的のバス停となったら、降車ボタンを押す。そして降車時に、シンガポールのSuicaといえるプリペイド交通系カード EZ Linkカードを機械にタッチして降りる。なお乗車時にもタッチしておく必要がある。
バスの運賃はすごく安い。かなり長い距離を乗っても2シンガポールドルいくかいかないか。EZ LinkカードはMRTと共用なので、駅や大きなバスターミナルにある端末で適宜チャージできる。
このアプリケーションのおかげで自由にあちこち動きまわることができた。
最後にチャンギ空港に戻るときも、オーチャードから36番のバスを利用した。MRTにくらべて時間はちょっとかかるが、街中をぬけてゆくので、生活のようすが垣間見え、ぼくには興味深い。乗客も大半が地元のひとたちだ。
36番のバスは、市内から一時間ほどかけてチャンギ空港へたどり着く。そしてターミナル1→3→2の順に、それぞれのビルの地下に停まる。この写真は、ターミナル2の地下バースで撮ったもの。
これがあの華やかなチャンギ空港ターミナルと同じ建物内なのかとおもうほど、地階のバスターミナルは地味である。降りるひとも意外に少ない。このときはぼくのほかにあとひとりいただけだった。
路線バスという乗り物はもっぱら日常に根ざしている。こんなふうに路線バスがつかえると、旅の幅が少しひろがったような気がする。