左膝が腫れた

ある朝、目が覚めたら左膝が赤くふくれていた。水が溜まっているらしい。触ると熱い。痛みで膝を自力で曲げることができない。坐るもたつも歩くもままならず、横になっていても痛い。ズボンやパンツを履くのもむずかしい。靴下にいたっては、とうてい自力では不可能だ。

氷嚢で冷やしてみた。すると腫れは多少ひいたようにおもわれた。痛みもやわらいだ。やれやれとおもったのもつかのま、しばらくするとまたぶりかえす。

椅子に腰かけることもできない状態なのに、リモートの会議や授業をやらなければならなかった。ままならない左足をずりずりひきずっている姿を見て、〈くんくん〉は「サックス先生みたいだ」などと言う。オリバー・サックスの『左足をとりもどすまで』にひっかけているのだ。

そうして数日はごまかしつつ、ようすを見ていたが、どうにもならない。やむなく整形外科へいった。

医者は最初、痛風だろうと言った。もうそんな歳なのかとショックをうけた。医者はなにやら機械をとりだした。膝に溜まった水を抜くためだ。チューブの先のプラグをぼくの左膝の脇にブチュッとさしこんだ。跳びあがるほどの痛みが走った。ただでさえ痛いのに。

しばらくしてからプラグが膝から抜かれた。プラグのささっていた孔から水がこぼれてベッドの上を濡らした。膝の水はずいぶん溜まっていたようだった。

医者が首をかしげている。水は黄色みがかった透明だった。痛風なら濁っているのだという。レントゲンを撮り、血液検査をした。結果は、医者の見立ての誤りを示していた。原因は痛風ではなかった。分離膝蓋骨といって、先天的に膝の皿の骨の一部が分離しており、それが原因で炎症をおこしたのだ。

その日は鎮痛剤をもらって帰った。10年くらい前にも、右膝がおなじような症状を示したことがある。そのときも溜まった水を抜いてもらったら楽になった。今回もそうだった。ただ恢復の速度はずっと遅かった。

数日後にまた整形にいった。こんどはMRIも撮った。まちがいなく分離膝蓋骨が原因だとわかった。炎症はだいぶ収まっていたが、まだいくらか残っていた。杖なしで歩けるようになるには、それからさらに2−3日を要した。

昨日は用事があった。試しに杖なしで出かけた。階段は両足を交互にだせない。左膝に体重がかかると支えられずにグラついてしまうからだ。とくに下りの階段は、いまにも転げ落ちそうだった。

おかげさまで、今日はだいぶぐあいがいい。あとはもう、なんとかよくなるだろう。ありがたいことだ。それでこうしてブログの記事なんかも書くことができている。