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馬車おばちゃんたち

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オビドスの街では観光用の馬車が走っている。本物のお馬さん二頭が牽く、けっこう立派なものだが、だからといって、ぼくたちが乗るわけはない。馬車は何台もあるらしく、街をふらふらしていると、シャンシャンシャンという鈴の音が遠くから徐々に近づいてきて、石壁の陰から馬車が急に姿をあらわすということが、しばしば起こる。

会議前日の夕方、歩き疲れて西の門の前でぼんやりしていたぼくたちの前に、馬車がやってきた。乗っているのは妙齢のおばちゃん5名。カメラを向けると、こちらに向かって全力で手をふり、「オッラー!」と叫び声をあげて、上機嫌である。

30分後、メインストリートで写真を撮っていたら、向こうからやってきた妙齢のおばちゃんたちの集団に、突如としてとり囲まれてしまった。彼女たちは口々の何やら大声でしゃべる。ぼくはひと言も理解できないのだが、そういうことは彼女たちの関心外であるらしく、まるで意に介さない。理解不能の言語を浴びせられていると、はたと気づいた。さっきの馬車に乗っていたおばちゃんたちだ。写真を撮ったのを怒っているかとおもったら、そういうことではないらしい。ようやくぼくが彼女たちの言葉を解さないことに気づいたらしいひとりが、簡単な英語で説明してくれた。ようするに、あの写真をじぶんたちに送れ、というのである。

ひさしく聞いたことのなかった類の要望だ。むろんお安い御用である。じゃあメールアドレスを教えてくれといって手帳をさしだすと、ひとりが書きつけて、手帳を返す。記されているのは、住所である。なるほど、アドレスといえば住所を書くほうが正しいにちがいない。

もちろん郵送するのはやぶさかでない。だがいちおう念のため、気をとりなおして再びメールアドレスを訊いてみる。おばちゃんは、「おお」と気づいたふうで、あらためて手帳に書きつけた。

手書きのアルファベットの確認をしてゆくと、あるところで指が止まった。アカウントのうしろが「@.com」となっているではないか。

おばちゃんに、これでいいのかと訊く。よいのだと自信満々で答える。アットマークとドットのあいだに何か入ったりしませんかと重ねて訊いてみたが、これでいいのだと胸を張る。いくらなんでも、これじゃ届かないよねえ。

とにかく3週間くらい待ってくれといって、その場は許してもらった。おばちゃんたちには、メールではなく、プリンタで写真を印刷し、それを郵送するだろう。