わが家に小さな物置小屋ができたのは今年の春のことだ。初めから母屋同様、趙海光さんに設計してもらうつもりでいた。物置ならスチール製の既製品をホームセンターでいくらでも売っているこのご時世になにを酔狂な、といわれるが、別にかまわない。何転かした末にできあがったプランは2間×1間、小さな窓がひとつ、吊り扉、そして杉の軸組に厚めの杉板をぐるりと打ちつけるだけの、文字どおりの小屋だった。
とはいえ、大工さんが何日も作業に入るから、スチール物置数個分の費用はかかる。趙さんと、いつものように施工をお願いした中野工務店の成瀬さんと何度も相談してようやく予算内に収まった。現代では、徹底してシンプルに原則をつらぬくからといって、安価につながるわけではないだ。物置だから毎日つかうわけではないのだが、毎日眺めはする。だから気に入ったものをつくったほうが気分がよい。じっさい毎日見ても飽きることがない。
天井は、母屋で実現できなかった草屋根にすることにした。ささやかな屋上緑化だ。じぶんで芝やラベンダーを植え込んだ。ラベンダーは旺盛に繁茂して良い具合なのだが、どこから舞い込んできたのかオヒシバやメヒシバも同じように旺盛に繁茂する。この夏は何度か屋根に登って草取りをした。それも9月に入ると一段落し、いまはラベンダーがニコニコと風に揺れている。
この小屋、二度ばかり雑誌で紹介された。『コンフォルト』6月号では、趙さんがエッセイのなかで紹介してくれた。先だって発売された『住む。』19号でも「小屋の贅沢」という特集の片隅に掲載されている。こんな小さな小屋を紹介してもらったことに、うれしかったり焦ったりとうろたえ気味の主人にたいし、当の小屋のほうはわれ関せずと飄々としたものである。