NHK教育テレビに「趣味悠々」という番組がある。さまざま趣味をとりあげて、その入門を懇切丁寧に教授するという中高年向けの企画だ。以前に、パパイヤ鈴木を講師に迎えてダンス講座が放送されたときは、よく見ていた。テレビの前で一緒にステップの練習をしながら。
さて、2月から8週連続でこの番組がとりあげているのが「鉄道模型」である。(NHKの同番組サイト。毎水曜日放送。)
じぶんでも何が何だかわからなくなるほど好きなものがたくさんあるお目出たい人間なのだが、なかでも鉄道模型はもっとも長い付きあいだ。鉄道模型界の『文藝春秋』ともいうべき雑誌『鉄道模型趣味』(機芸出版社)に接したのは小学三年生のとき。ページを繰るごとに現れる精巧につくられた模型車両、それらを走らせるレイアウト(ジオラマのこと)、専門用語に満ちたメーカーや販売店の広告。すっかり魅了されてしまった。記事も広告も、そこに書かれている内容は小三の坊主にはちんぷんかんぷんでまるっきり理解できなかったにもかかわらず、さっそく毎号購読しはじめた。当時は鉄道模型の専門誌といえば、これしかなかったのだ。それに、模型自体は小学生には高価すぎた(いまもだが)。以来、幾度かの中断を挟みながら、いまも定期購読をつづけている。
しかし、鉄道模型を愛好する癖がある事実を、ぼくはあまり公に口にしたことがなかった。周囲に知られてはならないことであるように感じていたからだ。なんとなく。こういうことは世を忍んでひっそりと愛好しなければならない。ローマ帝国から弾圧された初期キリスト教信者のように、鉄道模型愛好家たちは地下に潜伏し、ただ毎月届く『鉄道模型趣味』を介して、同志の活躍を知る。そんな感覚だったのだ。
不思議なもので、学生時代にはほとんど直接出会うことのなかった同好の士に、編集者として働きはじめてから出会うようになった。雑談のなかで、何かの拍子に気がつくのだ。すると、「え、もしかして、……お好きですか?」ということになり、あとは仕事の打合せそっちのけで延々と何時間も模型談義がつづく。
そんな地下潜伏愛好家にとって、まさか鉄道模型がNHKでとりあげられる日が来るとは夢想だにしなかった。とまどいもある。これが、鉄道模型が広く社会的認知をうけた証なのかどうか。仮に一個の趣味として社会的地位を与えられたのだとしても、それが喜ぶべきことであるのかどうか。いずれにせよ、濃い世界としかいいようのなかった鉄道模型界も、いくらかは「明るく清潔」になったのだ。
番組は、子どものときのあの気持ちをもう一度! と謳って再入門を後押しする、というスタンスである。内容的には、車両製作ではなくレイアウト製作に比重がおかれている。第4回にあたる今週(2/28)からは、いよいよ地形づくりに入るようだ。