「ユリイカ」石井桃子特集ほか

「ユリイカ」7月号は石井桃子さんの100歳記念特集だ。

石井さんは1907年生まれというから、レヴィ=ストロースより1歳年長ということになる。ふつうにいえば児童文学者という位置づけになるだろう。同号のアンケートに回答したように、ぼくにしてみれば、むしろそうした狭苦しいレッテルを貼る行為がほとんど無意味に感じられるような、その軽々とした身のこなし方に目を惹かれる。日本語による児童文学という領域がまだその形をはっきり定めることができていなかった時期から、翻訳者、編集者、出版者、創作者、実践者と、そのときどきに必要と考える仕事につぎつぎと取り組み、そのいずれにおいても類い稀な成果を残してきた。その積み重ねは確実に、今日の日本語による文学・出版世界の基礎をなしている。まさに100年の森づくり、なのだ。

同じ時期に、2冊の冊子が送られてきた。いずれも一橋大学大学院言語社会研究科の発行した紀要である。ひとつは教員が中心となった通常の紀要『言語社会』であり、もうひとつは『ren』と題されたその別冊で、こちらは院生が中心となって企画・編集したものだという。後者の立ち上げ時に一度よばれて話をしたことがある関係で、短いエッセイを寄稿している。

大学においてこうした試みを実行するのは、さまざまな困難がともなうものだが、かかわる院生の側にモチベーションがあれば、それ以上に多様な学びの機会になりうるはずである。そのためには、教員からの適切なファシリテーションと大学によるサポートが不可欠だ。今後の展開に期待したい。