草思社

草思社が民事再生法適用を申し立てのは1月9日(水)のことだ。ぼくが知ったのは同日の夕方だったが、業界では午後には承知されていたらしい。同社の破綻にかんしては日経新聞の取材に答えてぼくなりの解説をしており、11日付け同紙朝刊「文化往来」欄にまとまっている。

草思社は、片足の半分を人文書に残しつつ、商業性の高い出版へ踏みだし、新しい方法を開拓しようとしたパイオニアのひとつだ。俗流心理学やビジネス書っぽい内容を扱いながら、完全に実用書の世界には行かずに踏みとどまる。そうした手法を開発し、じっさい一定の商業的成功を収めていた。それまでの一般的な人文書出版社が許容しうる以上のリスクをとって、そのうえで、つねに勝ちつづける。少なくとも端目には、そのように見えた。

だから、しばしばあちこちで、営業関係者を中心に、草思社を称賛する声を耳にした。『間違いだらけのクルマ選び』『声に出して読みたい日本語』といった書名の付け方から広告の打ち方、営業の仕方にいたるまで、それまでの書籍出版社から見ればびっくりするくらい思い切った手を打つのがつねだった。その方法には、人文書はもとより、書籍をメインに扱う出版社なら大なり小なり影響を受けているはずだ。その意味で、同社の出版業界にたいする功績はけっして小さくない。

今回の破綻は直接には、本業である出版よりも副業のほうに起因するという話もチラと聞いているが、それが事実であるかどうか、ぼくにはわからない。いずれにせよ、絶妙の出版手法を開発し、多数のヒット作と独自のポジションを手に入れたかに見えた版元が、今日こうした状況に陥らざるをえなかった状況について、考えないわけにはいくまい。

草思社は複数の企業がすでに支援を表明しており、近いうちに新刊の刊行を再開できる見通しが立ちつつあるという。ぶじの再興を祈念する。