遠来の客人

雨降りの夕方、《あ》によばれて庭に出た。林檎の木の根元、ローズマリーの葉の陰に、雨粒を避けるようにして、小鳥がうずくまっていた。全体が茶色で、おなかのあたりに白っぽい斑が入っている。小鳥は卵をかかえているみたいな恰好でじっとして、目だけくりくりと動かしていた。

近づいても逃げないのだという。怪我でもしているのだろうか。もうまもなく暗くなる。このままにしておけば早晩近所の猫の餌食になるのは目に見えているし、うちのなかにも猫がいる。

二階にあがり、炭の入っている小さな段ボール箱をあけ、新聞紙を敷いた。

再び林檎の木のところへ戻る。小鳥はさっきと同じ恰好のまま、困ったように首をかしげていた。《あ》が両掌で掬いあげると、おとなしくかかえられた。そのまま箱に入れる。箱のなかには、水を入れたプラケースを入れておいた。そのプラケースの縁に、小鳥は黒い足をかけた。そのままで水をこぼしてしまうので、足をはずしてやる。すると小鳥はあわてて、また足をプラケースの縁にかける。

箱ごと、二階のデッキの雨のかからないところに置いてやった。箱のなかに収まった小鳥は、まるくなって、暗くなった庭で林檎の木の枝が風に揺すられるのを黙ってながめていた。

翌朝。先に起きだした《あ》が戻ってきて、「鳥さん、だめだったみたい」といった。デッキに行ってみると、小鳥は昨夕とほぼ同じような恰好で坐っているように見えた。だが、くりくりしたあの目はもう黒く濁り、動かなくなっていた。掌に載せようとすると、からだには温もりが感じられず、硬くなっていた。

小鳥の骸をかかえて庭に出、薪小屋の脇にスコップで穴を掘って、底に横たえた。
上から、《なな》と《くんくん》が、布団をかけてやるようにして、少しずつ土をかけた。最後にスコップでしっかりと土を盛り、落ちていた枯れ枝を一本たててやった。みんなで手をあわせた。

昨日の雨からうって変わってきれいに晴れあがったが、風は昨夜に増して強く吹いていた。

なんらかの理由で飛べなくなり、たまたまわが家に身を寄せることになったあの小鳥は、図鑑によれば、つぐみだ。故郷のシベリアから越冬のためにはるばる渡ってきた最中の客死だった。

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