豚インフルエンザでパンデミックかと騒がしい最中、十年ぶりにパスポートを更新した。前のやつの期限を忘れていてうっかり失効させてしまったので、実質取り直しである。
前は何やら山ほど書類が必要だったが、最近はようすがちがう。戸籍と失効したパスポートがあれば、基本的にはいいらしい。葉書もいらず、受取日は申請日にすでに明示されている。窓口も、以前よりは役所らしい横柄さは薄れた気がする。
添付する写真を、旅券事務所の近くの写真屋さんで撮影してもらう。機材はいまやデジタル一眼。撮影した写真をディスプレイで確認させてもらえるばかりか、気に入らなければ撮りなおしさえかまわないという。
撮影係の女性に、メガネをはずすよう促される。この先メガネを変えたら、それだけで印象が変わって、下手すると作り直しを余儀なくされるかもしれない。メガネなしの写真なら、入国審査のときにメガネをはずせば済むだけですよ、などと半ば脅すのだ。なるほどね。もっとも、これまでそんなこと言われた経験はないんだけども。
そんなわけで、メガネをはずしカメラに収まる。目覚めてから寝るまでのあいだ、ふだんはメガネをはずすことなどほとんどない。できあがった写真を眺めても、どこの誰だかなあ、という印象だ。しかしそんな個人的感傷とはまるで無関係に、国際政治的には、これが法的同一性の根拠のひとつとなるのだ。このパスポートの切れる十年後には、どうなっていることやら。