羊蹄山に登る(上)

話は前後するが、9月23日に羊蹄山(1893m)に登った。北海道へ来てその美しい山容をながめるたびに、いつか登ってみたいとおもいつづけてきた山である。ルートは4本あり、そのうちもっとも整備されているという真狩ルートを選んだ。

函館と札幌の集中講義の終わったら、すぐにでも登りに行きたいのはやまやまなのだが、予報によれば当初予定してた22日は天気がよろしくないらしい。天気待ちのため、まずは島牧へ移動。ガンゼさんのところで一泊したのち、午後、岩内からパノラマラインを越えてニセコに入った。登山口である真狩の羊蹄山自然公園を下見し、近くのまっかり温泉に行く。雨上がりの野に虹がたちあがっていた。羊蹄の姿が正面に見える。その日は羊蹄山自然公園内にある登山者用駐車場にランクルを駐めて車中泊。夜中にお手洗いに出ると、頭上に満天の星が輝いていた。

0505目が覚める。シュラフが温かくて心地よいため、つい寝過ごしてしまった。身支度を調え、駐車場にある入山届に記入して、0540出発。家族づれでにぎわう感じのいいオートキャンプ場を抜けると登山口である。初めのうちは樹林帯のなかを歩く。ひさしぶりの山登りであり、単独峰である羊蹄は上りがきびしいと聞いていたので、ストックを一本もってきた。

「秋晴れ」という言葉をそのまま具現したかのようなすばらしい好天である。

三合目をすぎると樹林のあいだから少し展望が効くようになる。低いところには霧がでており、それに隠されて街はまったく見えない。道はひたすら上り、ぐいぐい高度をかせいでゆく。

一合ごとに標識がつけられている。最初は15分から20分で次の標識に到達していたが、その時間は徐々に延びてゆく。五合目にさしかかるころには、早くも脚が重くなる。

このあたりから疎林となり、眼下に真狩の街、その背後に昆布岳、さらにその向こうには洞爺湖が光っており、きれいな弓なりになった噴火湾の海岸線が延びていて、その先に浮かぶ駒ヶ岳まで見渡すことができる。少し歩いては景色に目をやり、気を紛らわせる。六合目のあたりで少し楽になるが、その先はまたきつく、苦しい。八合目をすぎるとガレ場のトラバース。けっこう崩れているが、上りでないので身体は楽だ。しかしその先はまた上り。ハイマツ帯に埋もれるようにして九合目の標識がある。ここは避難小屋への分岐でもある。

その先に小ピークがあり、目の前に尾根がそびえている。登山道は、しかし尾根ぞいではなく、左に入ったところを登ってゆく。日影になったところには大きな霜柱がたっている。

ここまでくると、脚が重く痛くて、ほとんど前へ出せなくなった。数歩あるいては一服する。前を見ると、急角度の上り道がまだ延々と続いている。しかしその先で荷をおろしているらしき人影も見える。もう一息と言い聞かせて、飴を一粒口に入れる。糖分補給の効果絶大、脚が動きはじめる。ゆっくりゆっくりと登る。

0935、ようやくお鉢(火口)のへりに到達した。登山口からちょうど4時間だ。ここで小休止。少し休むと、びっしょりかいた汗がたちまち冷える。フリースを羽織っており、歩いている最中はたしかに暑いのだが、この日はけっきょく一日手放せなかった。

羊蹄山に登る(下)に続く