まぶしい草野球

6年生になったばかりのある日、《なな》は突然、子供会の野球部に入部した。以来ほぼ毎週末、熱心に野球の練習に明け暮れている。その試合があるというので、見にいった。

行く先は、江戸川河口ちかく。巨大なパワーショベルやダンプトラックが整列しているなか、未舗装路を分け入ってゆくと、ふいに視界が開けた。土手の間際に草原がひろがっている。そこが野球場だった。

地域の少年野球関係者が、長年かけてこつこつ整備していたところらしい。きちんとネットを張ってグラウンドを囲ってあるばかりか、単管パイプを組みあわせて、ベンチやネット裏のスコアラー席までが用意されている。

三塁側の、甲子園でいうとアルプススタンドにあたるような場所で、試合を見物させてもらう。かんかんと陽射しが照りつける。乾いた川風が吹き抜け、そのたびにグラインドで巻きあがった土埃が襲来する。外野手が草にスパイクを埋めるようにして守っているすぐ前を、燕が地面すれすれに飛び去ってゆく。

県大会進出が許される6強入りをかけた決戦だった。しかしぼくたちが到着したとき、すでに試合は4回裏。3-7で《なな》たちのチームは負けていた。その後おたがいに点を入れあうが、つねに追う展開。6回表を終わった段階で、6-11。あとは裏の攻撃を残すのみとなった。少年野球のルールということで、試合開始から90分を経過したばあい、その回終了時に同点でなければ、そこで試合終了となるのだという。

5点差あったが、負けていなかった。アウト2つをとられながらも4点を入れ、1点差まで迫った。ぼくたちの横には、隣町の野球部の子たちがいて、大きな声をだして応援していた。しかし、3塁に同点のランナーを残しながら、とうとう力尽きた。10-11。選手の子どもたちは目を真っ赤にして泣いていた。《なな》はずっと控えだったが、最後に整列したときには、やはり泣いていた。

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