テレビを買った。一カ月くらいあれこれ検討して機種を選んだ。ソニーのHX800の40型、同じく壁寄せスタンド(SU-FL71M)とシアターシステム(HT-CT350)、それにパナソニックのBDレコーダー(DMR-BWT1000K)という組合せだ。
家電商品最安値の聖地といわれる(?)池袋に行って交渉した。ずいぶん安くしてもらい、おかげで、ぶじ予算内に収まった。もっとも最初は在庫があるはずだったのに、最終的には納期一週間かかるといわれた。急ぐ理由もなかったのでOKしたが、たぶんそうやって値引きしたぶんの調整しているのだろう。家電製品の価格は発売された瞬間から日ごとに下がってゆくものらしい。なんともバザール経済的なやりとりである(詳しくは拙著『アトラクションの日常』第4章参照)。
さて一週間後、配達と組立の日である。やってきたのはローレル=ハーディのような二人組。この二人組には心底びっくりさせられた。伝説のコメディチームに似ていたからではない。その仕事ぶりがあまりに適当だったからだ。
最初におどろかされたのは、ドライバーをまわす手つきすら覚束ないことだが、そんなのは序の口だった。なんといっても商品知識がない。説明書をみながら組み立てている。しかも、それでも間違えるのだ。シアターシステムのバーという装置がある。棒状の箱のなかにスピーカーがいくつか収まっている器具だ。その設置方法がわからず、スタンドのリモコン置き用の小さな台の上に載っけて、こうですかねなどとといって平然としている。そんなはずがあるわけない。説明書をみると、同梱の専用金具をつかってテレビ本体の下につり下げると、ちゃんと書いてある。
ケーブルの接続の仕方も適当である。ぼくのところは一般家庭に比べればちょっとだけ機材が多いかもしれない。しかし、そうした接続はお願いしていないし、かれらも手を出さなかった。依頼内容は単純である。今回購入した3種の機材(テレビ本体とシアターとBDレコーダー)を、従来からあるCATVのSTBをかまして接続してほしいということだけ。
たしかに、いちおう配線はしてくれた。テレビ本体をつけて、地上デジタル、BSなどが映ることと、シアターから音が出ていることだけを確認すると、かれらはぼくに、あとはお客さんのお好みで、などと適当なことを言って、そそくさと帰っていった。
かれらの帰っていったあとに残されたテレビまわりは、まるでスパゲティをぶちまけたように配線がこんがらがっていた。そして、たしかに地デジもBSも放送そのものはテレビに映すことができるのだが、BSをBDレコーダーで録画することができない接続になっていた。
かれらの仕事ぶりをみていて、途中からぼくはもう何かを期待するのを止めていた。そのあとぼくは、もう一度すべての配線をとりはずし、一からすべての接続をやりなおすことにした。作業が終わるまでにさらに一時間半ほどかかったが、すっきりとうまくつながった。
あれこれ買ったので、それらを相互に接続したりする作業はたしかに少々面倒だったかもしれない。しかし、かれらはこの作業で糧を得ているのではないのか。かれらの仕事ぶりをみて、これでも「プロ」とはよびにくい気がする。組立の代金だって、しっかり徴収されているのだ。
もっとも、こう考えることもできるかもしれない。たしかに組立代は支払った。だがその金額はけっして十分とはいえないものであり、その意味では、組立に来た二人組の仕事ぶりは値段相応だ、というふうに理解できなくもない。
しかし、たとえそうであったとしても、それでは販売店の姿勢としてはどうだろうか。「設置や接続おまかせください」と謳って組立代を徴収しているのだから、惹句に偽りありといわざるをえまい。ぼくのばあいは、接続について、たまたまあるていど知識があったからやり直すこともできた。だがそうでないひとたちは、どうすればいいのか。それも消費者の「自己責任」だというのなら、ちょっと行き過ぎているというべきではなかろうか。
二人組は帰りしな、「表の空箱をきれいに片づけて帰りますので」という言葉を残していった。あとで外へでてみると、段ボール箱や発泡スチロールの緩衝材の切れ端がいくつも庭に転がっていた。