勝手にクリスマス・エクスプレス2010(1/3)

クリスマス・エクスプレスは、JR東海が1988年から1992年までクリスマスシーズンに流していたテレビ・コマーシャルのシリーズである。

「なつかCM」みたいな懐古番組の定番であるうえに、いまではYouTubeなどにも映像があげられており、誰でも見ることができる。また、Wikipediaをあたれば、やたら詳細な解説を読むこともできる。ちなみに個人的にもっとも好きなのは、牧瀬里穂の登場する1989年版である。

このCMは、札束が幅を利かすバブル末期において、若者のある種の「純愛」的な場面をクオリティ高く描いており、山下達郎の名曲「クリスマス・イブ」がつかわれたこととも相まって、当時から高い評価をうけていた。いま見ても、いろいろな意味でじつによくできていると感心させられる。

授業でこのCMをよくみせる。ぼくは日本のクリスマス文化について関心があるのだが、20年前のこのCMは、いまでも日本的クリスマスを考えるうえで、最良の教材のひとつであるとおもうからだ。

で、前々から考えていたことを、今年は試してみることにした。大学院の授業で「もしクリスマス・エクスプレス2010をつくるとしたら?」という課題に挑戦したのである。

といっても、よくあるような、「パロディ」と称しながら、そのじつパロディでもなんでもないような真似っこづくりではない。授業なのだし。やり方は、こうだ。

まず、88年から92年、それにエクストラとして2000年に放送されたクリスマス・エクスプレスの全作品を分析する。作品ごとにすべてのカットを絵コンテに落とす。それをもとに、作品を構成要素ごとに整理し、それらがどのように組みあわされているか、そしてそれが何をあらわそうとしているかを検討する。全作品に共通する要素があれば、それがこのシリーズに一貫性を与えている枠組みであると、さしあたり言えるだろう。

たとえばそれは、国鉄分割後に誕生したJR東海という企業のイメージCMという大枠であったり、日本的クリスマスのイメージを喚起させる典型的なアイテム群であったり、クリスマスを恋愛における一大イベントとみる信念であったり、遠距離恋愛という具体的なシチュエーションであったり、「すれ違い」ものというプロットパターンであったり、女性を中心にとらえる視線であったり、ソフトフォーカスや細かいショットのつなぎ方といった技法であったり、離れていた彼女と彼とをぶじに結びつけたあと最後に「どや顔」で走り去ってゆく(いまはなき)100系新幹線の後ろ姿であったりするだろう。

それらを受け継ぎつつ、しかし2010年の今日の状況に照らしあわせて、企画を考案し、やはり絵コンテを切り、じっさいに60秒の映像作品として製作するのである(今回はデジタルストーリーテリングではない)。

なお、ぼくの授業において、作品製作を含むワークショップという形式は、ありがちな製作技法を教え込むことを目的としたハンズオンなのではない(ただし結果として技法を教えることも含まれる)。そうではなく、あくまで実践をとおしてさまざまなメディア論的課題をあぶり出すための方法として、これを採用している。実践してみることで初めて気づかされることは少なくない。それをもとに、さらに考えを深めてゆく。そういうアプローチなのである。

勝手にクリスマス・エクスプレス2010(2/3)へつづく

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