驟雨

さる出版社の方が、わざわざ市川まで打合せに来てくださった。

執筆の話やら悪巧みの相談やら、二時間ほど愉しく話をした。これから都内へ戻られるという編集の方を見送ったあと、書店に寄ってから外へ出た。雲行きが怪しい。

歩いて帰るつもりだったが、バスに乗ることにした。

つぎのバス停で降車、というところで、路面に黒い滲みがひろがりはじめた。ポツ、ポツ、ダダダ……というテンポで、滲みの数は一気に増えてゆく。あいにく傘はもってきていない。

バスから降りた。大粒の雨が矢のように降り注いでいる。そのなかを小走りに抜けた。並木まで来ると、雨脚は弱くなった。その隙に自宅まで急いだ。頭上で一度、雷鳴が轟いた。

うちに駆け込み、すぐに濡れたシャツを脱いだ。朝、干してあった洗濯物は、半分乾いたところで、また濡れてしまっていた。

こんなふうに雨に濡れるのは、いつ以来だろう。以前であれば、こうした予期せぬ出来事に遭遇するのはけっして嫌いではなかった。

しかし、首都圏もまた放射能に汚染されているらしい今日では、もはや驟雨に濡れるというシチュエーションを愉しむような余地はあまり残されていないのだった。

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