しばしば富士山をながめてきた。用事があって西日本へ行くようなときはもちろんだが、ぼくのばあい帰省先が名古屋だったからだ。
東京・名古屋間の移動手段は、ひととおりは試してみた。最近はもうあまりつかわないけれど、若いころは夜行バスや大垣行きの夜行普通列車などもつかった。東海道本線で名古屋に行ったことは何度もあるし、中央線を塩尻経由で行ったこともある。
最近の帰省はもっぱら新幹線かディフェンダーだ。これも東名・新東名・中央道の高速道路ルートはもとより、下道ルートもおおむね踏破済みである。
どんなルートをとおっても途中どこかで富士山に出会うことになる。その姿がきれいに見えることもあれば、雲に隠れていることもある。
2015年の年末も名古屋へ帰省した。富士山は雲に隠れていたが、富士川サービスエリアに入ってみると、雲がきれた。山頂が、こちらをうかがうようにして顔をのぞかせた。大勢の観光客に混じって、ぼくもシャッターを押した。上の写真はそのとき撮った一枚だ。
特別に思い入れがあるというわけではないが、それでも富士山の姿を目にすれば、きれいな山容だと感心する。何度見ても見飽きない。やっぱり感心する。
なかでも気に入っているのは、東名の富士川サービスエリアあたりからながめた姿である。
奇妙な話かもしれないが、この風景において富士山は不在である。なぜなら、いちばんいい時間はむしろ夜だから。すばらしいのは、富士山本体というより、その裾野の地形なのだ。
東名上り線で由比からの急登をえんえんと走ってくる。富士川サービスエリアを通過すると、急に視界がひらける。夜だと富士山そのものは基本的には見えないが、駿河湾から山頂に向かってゆるやかに登ってゆく裾野の地形がわかるのだ。というのも、裾野の上には光の粒をばらまいたような富士市の夜景がひろがっているからである。
そのまま東名を走ってゆくと、ちょうどその光の粒つぶのなかへ滑り降りてゆくみたいな感じになる。