父逝く

雨まじりの南風がぼうぼうと吹きつける朝、父が亡くなった。享年82(満80歳)。

ここしばらくずっと病気療養がつづき、入退院をくりかえしていた。昨夏にはいよいよひどくなった。お医者さまからは「覚悟しておいてください」と何度も言われた。ところが秋になると奇跡的に持ちなおした。

11月からは少しずつリハビリに取り組んだ。ベッドの上でからだを起こすことさえ困難になっていたのだ。年末に子どもたちをつれて《あ》とお見舞いに訪れたときには、平行棒みたいな器具につかまりながらよちよちと、しかし自力で歩いてみせ、理学療法士の先生を大いにおどろかせたりした。やっぱ孫を前にするとちがうんだねと、ぼくたちは笑ったものだった。

2月に入っても引きつづき、また元気になるのだといってリハビリに励んでいたらしい。だが、まもなく細菌性の肺炎をおこし、再び酸素マスクが必要となった。その前に間質性の肺炎をやっており、すでに肺の機能がだいぶ低下していたのだろうとおもう。

それでも頭と意識はしっかりしていた。亡くなる二日前にお見舞いにいったときも、マスク越しに世間話をかわした。看護師さんに錠剤まじりのヨーグルトをたべさせてもらった。「おいしい?」と訊かれた父は「おいしい」ととても満足そうにうなづいた。ぼくは父の右手を軽く握り「また来るね」と言って帰った。それが最後となった。

千葉をでるとき空はあれほど荒れていたのに、名古屋に着くと陽が差していた。汗ばむほどの陽気がぼくを包んでいた。春一番の吹いたバレンタインの日曜のことだった。

生前のみなさまのご厚情に心から感謝申しあげます。